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社説・コラム

天風録 『築城400年』

 城好きで知られる落語家の春風亭昇太さんが一番多く訪ねた城は福山城らしい。なぜなら福山駅が、かつての三之丸の場所にあるから。新幹線で通過するたび、カウントできるとの落ち▲車窓から見える5層の天守は築城400年の大規模改修を終えた。久しぶりに下車し、北側から見上げると黒一色の壁に度肝を抜かれた。他にない鉄板張りを再現した。からめ手への砲撃に備えたというが、謎は多い▲再発見や歴史の深掘りがあって改修の意味は増す。初代藩主の水野勝成公は築城にあたり瀬戸内海に近いまっさらな地を選ぶ。干拓地を広げ、水道を敷き城下町を整えた。職人を集め、木綿をはじめ産業を興す。福山の土台を築いた先見性が今まぶしい▲記念事業で出版された「写真でみる福山城」には、あちこちから城を収めた古写真が載る。親しみを感じてきた市民の視線と重なる。天守は福山空襲で焼け落ち、21年後に再建を果たす▲城文化を生かす発想が薄れた時期もある。令和の改修費は大半を事業所や市民が寄付し、鉄板は地元の製鉄会社が提供した。ものづくりの原点にも思いをはせたはず。先人に倣い改修を到達点でなく、まちづくりの出発点にしたい。

(2022年9月13日朝刊掲載)

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