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[考 国葬] 同志社大教授 村田晃嗣氏 外交成果 世界から評価

 安倍晋三元首相は憲政史上最長政権を築く中で、さまざまな外交的成果を果たしてきた。国葬と決めた以上は粛々と進めるべきだ。

 日米関係の強化は言うまでもないが、オーストラリア、インドを含めた4カ国の安全保障面での連携強化にも取り組んだ。米大統領にトランプ氏が就任すると米欧関係は冷え込んだが、安倍さんは世界でも数少ないトランプ氏と対等に話せる存在だった。フランスのマクロン大統領やドイツのメルケル前首相との間の架け橋の役割を担った。

 新型コロナウイルスの影響で実現していないが、首相在任時には中国の習近平国家主席を国賓で日本に招くことで合意し、米中間でバランスを取ろうと尽力していた。安倍さんの世界的な評価は、日本国内よりもずっと高い。

 一方で対ロシア外交は結果的に失敗だったと思う。北方領土の4島一括返還の基本原則から「2島引き渡し」にかじを切ったが、実現できなかった。

 プーチン大統領との個人的な信頼関係に頼り過ぎた感は否めない。ウクライナ侵攻で明らかなように、ロシアはプーチン氏が「やる」と言えば戦争を始めてしまう国。その意味では、安倍さんのやり方の方向性は間違っていなかったと思うが。

 これらの安倍さんの政治史の検証は不断に行われるべきだ。転じて、評価が定まっていないことを国葬反対の理由に挙げるのはおかしい。前回、国葬をした吉田茂元首相も、評価は今も揺れ続けている。

 国費で16億6千万円程度の費用を賄う点への反対もあるが、人口で割れば国民1人当たり13円程度の負担。弔問外交で期待できる成果を考えれば、そんなに不合理な金額だろうか。

 何よりも、安倍さんは襲撃され、殺された。病気などで亡くなった歴代の政治家とは、死の意味合いが違う。銃撃事件は安寧な市民社会への挑戦だ。国葬は日本は決して暴力に屈しないという明確なメッセージになる。

 ただ、世論を二分するぐらいなら、政府と自民党の合同葬という形でも良かった。反対の声はもっと少なかったのではないか。岸田文雄首相はもう少し慎重に検討しても良かった。(聞き手は松本輝)

むらた・こうじ
 64年神戸市生まれ。神戸大大学院法学研究科博士課程後期課程単位取得満期退学。広島大総合科学部助教授を経て、00年に同志社大法学部助教授、05年から同教授。13~16年に同大学長、19、20年に防衛省参与を務めた。専門は国際政治、米国外交。

(2022年9月13日朝刊掲載)

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