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社説・コラム

社説 沖縄知事再選 首相は民意受け止めよ

 沖縄県知事選は、現職の玉城デニー氏が34万票近くを獲得して再選を果たした。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対を掲げ、前回も対決した自民、公明両党推薦の元宜野湾市長に、6万票余りの差をつけた。

 玉城氏を支援する超党派の枠組み「オール沖縄」は地方選で敗北が続き、弱体化が指摘されていた。その中で4年前より票は減らしたものの「移設ノー」の民意の底堅さを示した意味は重い。さらに言えば5万票以上を得た3位の元衆院議員も移設工事の見直しを唱えていた。

 同日の県議補選でも玉城氏支持の新人が当選し、県議会の知事与党が多数を確保した。今回の選挙を基地問題の転機にしようとした政府・与党の思惑は、完全に外れた。与野党対決型の重要選挙に敗北したことで岸田政権にダメージとなろう。

 政権側は「勝てる」と当初は踏んだ節がある。自公推薦候補は辺野古移設への態度をあいまいにした前回と違い、容認を公言して政府とのパイプを生かした経済振興を前面に掲げる戦術だった。そこに閣僚経験もある元衆院議員が立候補し、保守分裂となった上に世界平和統一家庭連合(旧統一教会)関連団体と候補者の関わりが発覚し、逆風を受けた面もあるようだ。

 ただ、与党側が敗北した真の原因はそこにはあるまい。

 沖縄の本土復帰から50年。この知事選の様相は少しばかり違って見えた。過去の選挙戦では辺野古移設への賛否ばかり注目され、他の争点は埋没しがちだった。しかし今回、県民が最も関心を寄せたのは、新型コロナウイルス禍で打撃を受けた経済の回復とみていい。また全国平均と比べ、子どもの貧困率が2倍という現実を踏まえた子育てや教育の在り方も語られた。

 辺野古移設を巡っては、埋め立て土砂の投入が開始されるなど、なし崩し的に工事は進む。こうした状況も踏まえた上で、沖縄の有権者が玉城氏を選んだのはなぜだろう。

 在日米軍専用施設の約7割が集中する沖縄に新たな基地を押しつけ、それに絡めて経済支援を持ち出す―。昔ながらの手法を繰り返す政府の沖縄政策への不信任ではないか。2023年度予算の概算要求でも沖縄振興費はまた200億円削られた。こうした手段を可能にする本土復帰以来の沖縄振興の枠組みも問われていよう。

 岸田文雄首相には、沖縄北方担当相の経験がある。今こそ民意をしっかりと受け止めてほしい。辺野古移設の問題はもちろん、選挙戦で問われたさまざまな沖縄の課題と「見返り」など考えずに向き合うべきだ。

 松野博一官房長官は選挙結果を受けて「辺野古移設が唯一の解決策」と毎度のフレーズを繰り返した。それで済むはずもない。予定海域で確認された軟弱地盤を改良する設計変更について、玉城知事が不承認とした是非が法廷に持ち込まれている。工事はまず中止して知事が求める協議の場を設け、話し合いのテーブルに着いてほしい。

 普天間飛行場も漫然と放置していいのか。市街地に囲まれる危険性を、日米ともに移設の理由とする。ならば工事など待たずに飛行をすぐ止めるのが筋だろう。沖縄の人たちの目線に立った行動を何より求める。

(2022年9月13日朝刊掲載)

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