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連載・特集

『生きて』 NPO法人「食べて語ろう会」理事長 中本忠子さん(1934年~) <12> 塀の中から

見知らぬ人たちと文通

  ≪名前も顔も知らない受刑者たち約20人と文通している≫

 食べて語ろう会の活動や、うちの半生をつづった本が4冊ほど出版されとるの。それが全国の刑務所や拘置所、少年院に置いてあるみたいで名前も顔も知らん受刑者から手紙が届く。もちろん、どんな罪で服役しとる人かも分からん。でも本を読んだ人から手紙や現金、自分で買った小説や漫画、資格勉強のための本が送られてくる。

 続けて文通しとる人が今、だいたい20人くらいいるかな。返事は1日に2通、朝と晩に手書きで1人3枚ずつ書くって決めとる。パソコンで「ありがとう」じゃそっけないじゃない。書きたいことをすぐ思い付く時は10分くらいで終わるけど、そうじゃないと途中でテレビ見たり、何か食べたりしてなかなか進まん。

 でも、塀の中におる人はすごく孤独でしょう。だから文通は大事。中には涙のにじんだ跡が分かる手紙もある。不安でたまらず、自分が惨めなんだと思うよ。どの人にも「夢と希望が薬。諦めは毒」と書くんよ。最初は共通の話題がなくて天気のことや広島のことを伝えるんだけど、慣れてくるとお互いの悩みを相談するようになる。励ますつもりが励まされて、私が力をもらっとる。

 服役中のある男性からは決まって月に3通手紙が来る。この人からは年に1回、2万円の現金と本も届く。そして、書いてあることがしっかりしとるの。新型コロナウイルスの流行で緊急事態宣言が出た時の手紙には、基町の家に来る子どもに宛てて「満足の目で見ること、当たり前と思っていたことへの感謝が大切」と書いてあった。刑務所や少年院に入った人に教えられることは多いよ。

 どの子も出所して社会復帰するとき、不安を口にする。地域になじめず、孤独を感じるとまた犯罪に走ってしまいかねない。だから、出所後の生活になじむよう一つ一つ、私らが教えてあげんといけんのよね。

 刑務所から帰ってきて活動を手伝ってくれる人もいて、うちに来る子どもたちに罪を犯すことの重大さを教えてくれる。経験していない私とは説得力が違う。力になってくれるよね。

(2022年9月14日朝刊掲載)

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