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社説・コラム

『記者縦横』 G7へ被爆遺構発信を(2023広島サミット)

■編集委員 水川恭輔

 フランス、英国、ドイツ、イタリア。広島市で来年ある先進7カ国首脳会議(G7サミット)に参加する欧州の国々は、いずれもサッカーの人気が高く、強豪国だ。少し気が早過ぎるが、それらの国々の関係者らと話す機会があれば、紹介したい名選手がいる。

 草創期の日本代表で活躍した清水直右衛門さん。今の平和記念公園内にあった旧天神町北組の呉服問屋で育ち、サッカーが盛んだった神戸高商(現神戸大)に進学。在学中の1923年に日本代表に選ばれ、大阪での中華民国戦で代表の歴代2ゴール目を決めた。

 一線を退いた後は実家の店を継いでいた。だが、原爆投下によって爆心地近くの旧天神町北組は壊滅。42歳で自宅兼店舗にいた清水さんは被爆死した。今年3月、自宅跡近くで発掘された家や道の跡を公開する被爆遺構展示館が開館する前に紙面で生涯を伝えた。

 「親戚が清水さんの店で働いていたんです。サッカー選手だったとは知らなかった」―。読者からはそんな反響も届き、犠牲者の生きた証しを刻む意味をかみしめた。一方で展示館の様子を時折見ると、あまり人が入っているように見えないのが気になっている。

 G7サミットでは核兵器を持つ米英仏を含む首脳が同公園を訪れる可能性がある。その地で「あの日」、何が起きたのか。壊滅した街の遺構を発信に生かさない手はない。近所に住んでいた清水さんの生涯は、奪われた命に向き合うきっかけの一つになると思う。

(2022年9月16日朝刊掲載)

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