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沖縄戦 知事たちの物語 映画「島守の塔」 五十嵐監督 人間の変わっていく様描く

 沖縄戦当時の官選沖縄県知事・島田叡(あきら)(神戸市出身)と県警察部長の荒井退造(宇都宮市出身)をモデルにした映画「島守(しまもり)の塔」が23日、広島市西区の109シネマズ広島で公開される。五十嵐匠(しょう)監督は「戦争が何をもたらし、人間がどう変わっていくのかを描きたかった。若い世代が沖縄戦を知るきっかけになれば」と語る。

 1945年1月、沖縄に赴任した島田。県民への思いやりにあふれる半面、心の奥は死を覚悟している。国体護持にこだわる軍に反発しながらも逆らえない。県民が戦場へ次々と放り出される現実に揺さぶられる。皇民化教育をすり込まれた県職員や子どもたちが自らを慕う姿に苦悩する。

 萩原聖人と村上淳、吉岡里帆たち実力派の熱演が光る。今井正監督「ひめゆりの塔」(1953年)に出演した香川京子は重みを与えている。女子学徒が負傷した日本兵を看護する自然壕(ごう)ガマの野戦病院の描写は、臭気や湿気を感じるほど生々しい。多くの死を悼むかのように島唄と踊りが時折挿入される。

 「フィクションの劇映画として人間を描いた。さまざまな証言やエピソードを基に人物像や物語を作り上げ、何度も脚本を書き直した」と五十嵐監督。新型コロナウイルス禍で撮影を1年8カ月中断し、昨年11月に再開。復帰50年の節目に間に合った。沖縄では「美化し過ぎている」「史実と違う」という声も受けた。

 「基地のある沖縄は、まだ沖縄戦が終わっていない」と五十嵐監督。「日本人は忘れやすい。語り継ぐ映画を作り続けることに意義がある」と力を込めた。

 下松市のMOVIX周南、倉敷市のMOVIX倉敷でも23日から公開される。(渡辺敬子)

復帰50年 作品相次ぐ

 沖縄復帰50年に合わせ、沖縄を題材とした作品が相次いで登場している。

 「ばちらぬん」は与那国島の自然や祭事を幻想的に切り取りつつ、老人たちの語りを収めた実験的な作品。与那国の言葉で「忘れない」を意味する。15歳まで島で育った東盛あいか監督(24)は「変化する国境の島で、今しか撮れないものをとどめたかった」。

 「パイナップルツアーズ」は1992年公開のデジタルリマスター版。架空の島を舞台に米軍の不発弾を巡るドタバタ劇を展開する「沖縄県産」オムニバス映画。平良とみ、照屋林助、新良幸人たちが出演し、りんけんバンドが音楽を担当した。

 「ばちらぬん」は横川シネマ(広島市西区)で公開を終了し、「パイナップル―」は同シネマで16日から公開する。

(2022年9月16日朝刊掲載)

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