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社説・コラム

社説 自衛隊の性被害 根絶目指し徹底調査を

 性暴力は重大な人権侵害である。国民の安全を守るべき自衛隊で、はびこっていないか。徹底的に調査し、根絶しなければならない。

 浜田靖一防衛相がハラスメントの実態を調べるため、全自衛隊を対象に「特別防衛監察」の実施を命じた。相談をしたのに適切な対応がないケース、上部組織への報告を怠っているケースを10月末までに洗い出す。

 きっかけは元女性自衛官の五ノ井里奈さんが、訓練中に男性隊員から性被害を受けたと訴えたことだ。インターネット上で10万筆以上の署名を集め、防衛省に提出した。第三者委員会による調査をした上で、厳正な処分と謝罪を求めている。

 実名を明かし、顔を出して伝えた。性被害を断ち、隊員が安心して勤務できる環境をつくるためだ。勇気ある告発を受け、改革していく必要があろう。

 五ノ井さんは福島県内の陸上自衛隊の部隊に所属していた昨年8月、複数の男性隊員に押し倒されるなどした。自衛隊内の警察組織である警務隊に被害届を出し、3人が強制わいせつ容疑で書類送検されたが、不起訴となった。先日、検察審査会が「捜査が十分に尽くされたとは言い難い」として不起訴不当と議決。検察が再捜査をする事態になった。

 防衛省は何より、公平で透明性ある調査にせねばなるまい。ハラスメントの相談を受けた上司や組織が、被害者保護をはじめ適切に対処したかも検証すべきだ。五ノ井さんのケースは、多くの隊員が見ていたにもかかわらず、自衛隊内の調査で目撃証言は出なかった。「隠蔽(いんぺい)された」と感じた経緯がある。

 特別防衛監察は大臣直轄の防衛監察本部が行う。トップは検事長経験者で、一定に独立した立場で調査する。ただ今回は全隊員へのアンケートではなく、問題のあるケースを申し出るよう求める形だ。徹底した調査ができるのか疑問は拭えない。

 自衛隊のような階級制の組織は、ハラスメントが起きやすいと指摘される。組織の体質にまで切り込んで調査し、適切に公表するよう求めたい。

 告発は氷山の一角だろう。ハラスメント事案の訴訟で国側が敗訴したケースは多い。五ノ井さんがネット上で自衛隊経験者に尋ねたアンケートでは、暴言や体に触るセクハラが日常的という証言が目立ち、男女問わず悪質な性被害を受けた人もたくさんいる。証言は生々しく、問題の根深さを表している。

 防衛省内の窓口へのハラスメント相談は2021年度に2311件あり、この5年で9倍に急増した。浜田防衛相は特別防衛監察の指示を公表した際、有識者会議を設置して対策を見直すとした。まずは防衛省、自衛隊の自浄作用が問われよう。

 性被害やセクハラを告発する「#MeToo」運動は日本社会でも広がりをみせる。どんな組織や分野であろうとも被害の放置は、もはや許されない。

 女性自衛官は現在、約1万9千人で、全自衛官の8・3%である。ほぼ全ての職場で女性の配置制限は撤廃され、割合は増えた。少子高齢化などを背景に自衛隊の定員割れは続き、女性の活用はさらに必要となろう。ハラスメントが横行する組織に人が集まるわけがない。調査と対策の実効性が問われている。

(2022年9月20日朝刊掲載)

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