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連載・特集

[考 国葬] 山口経済同友会元代表幹事 柏原伸二氏 経済に活力 実施は自然

 多くの首相が短期間で投げ出した国政のかじ取りを、安倍晋三さんは憲政史上最長となる8年8カ月も担い、外交でも堂々と世界の首脳と渡り合ってきた。大胆な経済政策は地方にも波及した。山口選出の国会議員ということを差し引いても、国葬は執り行うべきである。

 出会ってから長いが、本格的に話すようになったのは2012年の衆院選ごろから。参院議員だった岸信夫前防衛相(山口2区)が衆院に転じた選挙で「弟に力を貸してほしい」と頼まれた。決して威張らず誠実な語り口で、食事の際も気配りを忘れない人だった。人柄にも引かれ、岸氏の連合後援会の会長を引き受けた。

 国会議員を含め政治家は道路を造ったとか、お金を地元に引っ張ってきたとか、そういうところが評価されがちだ。山口県外の経済界の人との会合でよく自慢するのだが、安倍さんは一切、我田引水をしない人。地元を大切にしていないわけではないが、大局に立って国家の行く末を見つめ、優しい人柄からは想像できないほどの決断力で国政に臨んだ。

 時として、国論を二分するような政策を強引に推し進めたことで批判もされた。経済政策「アベノミクス」は大胆な金融緩和で株高を実現した。一部の人が潤い、経済は成長していないとの指摘がある。誤解を恐れず言えば、地方経済も競争原理が働く以上、格差は広がらざるを得ない部分がある。長期的に見て持ち直した県内の企業もたくさんあり、一定に評価している。

 日本の顔として各国との信頼構築にも全力を注いだ。特に予測不能なトランプ元米大統領と蜜月関係を築いた外交手腕は世界に驚きを与えたはずだ。多くの国々が弔意を寄せているのに、国民が悼まないのもおかしなことだと思う。

 国葬について国会で審議すべきだとの声もあるが、極論、国民に選ばれた政権の閣議で決められたのであれば十分だ。苦言を呈するならば、岸田文雄首相が、安倍さんが襲撃されて数日後に国葬を営むことを決めたことだ。あまりに拙速だった。もっと国民に安倍さんの功績と国葬の意義を先に説明すべきだった。

 私の知る安倍さんは有言実行の人だ。多くの政治家が不適切な言動で政策を実現できない中、強力なリーダーシップを発揮してきた。もちろん光と影はある。ただ純粋に長年、重責を担ってきた人を、国を挙げて弔うことは自然なことと思う。(聞き手は有岡英俊)

かしわばら・しんじ
 50年岩国市生まれ。73年柏原塗研工業(現カシワバラ・コーポレーション)入社。88年から社長、15年から会長。中国経済連合会産業技術委員会副委員長、中国地域ニュービジネス協議会顧問、岩国商工会議所名誉会頭。03年から4年間、山口経済同友会の代表幹事を務めた。

(2022年9月20日朝刊掲載)

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