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社説・コラム

社説 原子力規制委10年 安全の「番人」 役割重い

 国内の原子力災害では最悪となった東京電力福島第1原発事故を受け、原子力規制委員会が発足し、きょうで10年になる。

 それまで原発の安全規制を担当していた原子力安全・保安院は、推進側である経済産業省の下に置かれていた。いびつな上に、チェック対象の電力業界との癒着まで指摘されていた。

 そんな体制を一新して発足したのが原子力規制委である。公正取引委員会と同じ国家行政組織法3条に基づく独立性の高い組織として位置付けられた。

 独立性や透明性を高めることで、安全の「番人」として重い役割を果たしてきた。ただ、政府が原発推進に前のめりになる中、今後も重責を果たしていけるのか。正念場を迎えている。

 規制委ができる前は、規制する組織も人材も、政官業による推進側の「原子力ムラ」とごちゃ混ぜだった。いわばアクセルとブレーキが同居していた。

 規制当局の独立性のなさは、国際原子力機関(IAEA)が2007年に調査した際も問題視された。規制担当部局を推進組織から分離するよう促されたほどだ。なぜ、事故の前に実現できなかったのだろうか。

 近年、「審査が遅いから再稼働が進まない」など、ムラに近い人たちの規制委批判をよく聞く。安全性を重んじるからこそ時間がかかるのだろう。そうした批判は、政府から一定の独立性を保っている証しでもある。

 発足から1年たたないうちに規制委は、原発の新たな規制基準を導入した。津波をはじめ、自然災害への対策を強化したほか、テロや航空機の衝突まで想定。炉心溶融など重大で過酷な事故への対策も盛り込んだ。「安全神話」から抜け出そうとする姿勢ならば評価できる。

 基準は「世界一厳しい」と言われる。しかし「世界で例のないことをしているのではなく、本来は事故前にすべきだった」といった専門家の指摘もある。そもそも地震国日本では、最も厳しくなるのが当然だろう。

 安全審査を終えた原発にも、最新の基準に適合するよう義務付ける「バックフィット制度」を導入した。安全性を高めるため欠かせない取り組みだ。

 透明性も格段に向上させた。安全対策を議論する会合は原則インターネットで中継し、議事録も公開している。規制当局と推進側とのなれ合いが断ち切られることを期待したい。

 ただ、今後には不安もある。どんな委員を選ぶかは、政権次第だからだ。民主党政権が選んだ初代の5人の中には、学会長を務めるなど地震学の第一人者や、広島で被爆した元国連大使がいた。原子力関連に限らない幅広い人選だったが、その後は「ムラ」に近い委員が目立つ。

 折しも岸田政権は、再稼働推進だけではなく、次世代型原発の建設検討まで打ち出した。委員選びを通して、規制委に影響を及ぼそうとする可能性は否定できない。何せ、法に基づいて設立された認可法人の日銀まで「政府の子会社」と見なす元首相もいた。そんな感覚で、規制委を扱うことは許されない。

 コストではなく、安全最優先で国民の健康や生命を守る。それが規制委の本来の役割といえよう。それを忘れたら、原発の安全審査は再び形骸化しかねない。原子力行政に対する国民の信頼回復も遠のくばかりだ。

(2022年9月19日朝刊掲載)

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