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社説・コラム

社説 日朝平壌宣言20年 粘り強く対話の道探れ

 日本と北朝鮮の首脳が初めて会談し、国交正常化交渉の再開を明記した平壌宣言に調印して、きょうで20年となる。

 この間、卑劣な拉致や、核兵器・ミサイル開発などの問題解決を目指し、さまざまな取り組みが繰り返された。しかし思うような進展はなかった。

 それどころか、北朝鮮は、ロシアのウクライナ侵攻に世界が注目するのに便乗し、ミサイルを30回以上発射するなど、傍若無人な振る舞いを重ねている。

 今までの手法が功を奏さなかった反省を踏まえて、国際社会には、打開策を練り直すことが求められている。日本は、その先頭に立つ必要がある。

 平壌宣言は2002年、当時の小泉純一郎首相と金正日(キム・ジョンイル)総書記が平壌で首脳会談を行い、署名した。日本は、植民地支配への「痛切な反省と心からのおわび」を表明。拉致については明言せず「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題」と表現して、北朝鮮が再発防止への「適切な措置」を約束した。

 当時の金総書記は首脳会談で謝罪までした。被害者のうち5人と、その家族は帰国がかなった。しかし北朝鮮が「死亡した」とする8人を巡っては対立。正日氏の死去で、息子の金正恩(キム・ジョンウン)氏がトップになった後の14年には再調査を約束したが、進まなかった。今は「解決済み」との主張に逆戻りしている。

 この間、拉致されたわが子との再会を夢見ていた父母らは老い、相次いで訃報が届く。一刻も早い解決が求められる。

 拉致と同様、核・ミサイル開発の問題でも、つかの間の期待と深い失望が繰り返され、解決は遠のいた。

 18年に米国と北朝鮮が史上初の首脳会談を行い、対話による解決ムードが広がった。しかし、その後は行き詰まる。国際社会による経済制裁は今も続いているが、北朝鮮は、中国やロシアを後ろ盾に、再び軍備増強に前のめりになっている。

 7回目の核実験を準備中ともみられている。あろうことか、今月、体制維持のために核の先制使用ができることを明確にする法令まで作った。他国が体制転覆を仕掛けたら、核攻撃を辞さないという警告なのだろう。

 米国本土まで届くミサイルを開発したとの分析もある。20年前とは比べものにならないほど深刻だ。核の惨禍を知る被爆地としては看過できない。

 平壌宣言についても、日本側が経済制裁で「白紙状態」にしたと主張している。拉致問題を巡る自らの不誠実な対応に頰かむりすることは許されない。

 これまで日本政府は「圧力と対話」を掲げながら、当初は圧力に重きを置いていた。しかし米朝首脳会談を機に対話ムードが広がると、拉致問題の進展を日朝首脳会談の「前提条件」とした従来の方針を転換した。無条件で北朝鮮の首脳に会うと明言してきた。

 圧力だけでは重い扉は開くまい。硬軟織り交ぜ、あらゆる手段で対話の糸口をつかみ、粘り強く交渉することが不可欠だ。北朝鮮に対する影響力のある中国を動かすためにも、米国や韓国を含めた国際連携をさらに強めなければならない。

(2022年9月17日朝刊掲載)

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