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連載・特集

緑地帯 岩崎文人 文学ノート残滴①

 原爆をモチーフとする戯曲は井上ひさしの「父と暮せば」(1994年9月、こまつ座初演)がつとに有名であるが、それよりも前の56年2月、劇団俳優座によって初演されたのが福山市出身の小山祐士原作の「二人だけの舞踏会」(岸田演劇賞受賞)である。この作品は、原爆の傷あとを抉(えぐ)った記念碑的作品といってよい。

 さらに、8月6日直後の広島を目撃していた小山は、その頃米英に続いてソビエトやフランスが核実験を行ったことに抗議するかのように、被爆者の神部ハナを主人公とする放送劇「神部ハナという女の一生」を「放送文化」(60年6月号)に発表する。このラジオ・ドラマをさらに発展深化させたのが、63年5月、劇団民芸によって上演された「泰山木の木の下で」である。舞台劇では、堕胎常習犯のハナ婆(ばあ)さんを取り調べる木下刑事も被爆者としている。

 小山は「瀬戸内海の子どもら」(34年「劇作」4月号)で劇作家の道を歩み始めるが、この作品も地方と都会というテーマで執筆されており、小山が社会的視座からの書き手であることをよく示している。

 ふくやま文学館は、16日から11月27日にかけて、特別企画展「藩校誠之館を起源とする福山中学校卒業生―葛原しげる・福原麟太郎・井伏鱒二・小山祐士・村上菊一郎」を開催する。この展示で紹介する文学者を軸に、これまで特別展でとり上げてきた文学者他幾人かを素描していきたい。(いわさき・ふみと ふくやま文学館館長=広島市)

(2022年9月15日朝刊掲載)

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