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社説・コラム

社説 国連の一般討論演説 機能不全と分断 打開を

 国連総会が開幕し、最初のヤマ場となる首脳級の一般討論演説がスタートした。3年ぶりに完全な対面方式となる今回は、言うまでもなくロシアのウクライナ侵攻が最大の焦点だろう。

 先進7カ国(G7)を中心にロシア非難の演説が相次ぐ。ウクライナのゼレンスキー大統領は異例のビデオ演説が認められた。ただ言いっ放しになりはしないか。国連憲章違反の暴挙をことごとく否定するロシアが批判を受け流すのは、容易に想像できる。何のための「討論」なのかが問い直されよう。

 国連のさまざまな限界がウクライナ侵攻で露呈している。

 何よりロシアを含む5カ国の常任理事国が拒否権を持つ安全保障理事会が機能不全に陥り、何の手も打てないことだ。常任理事国自身がルールを守らず、国際社会に敵対する―。仕組みができた時には想定していなかった事態だろう。

 新たな分断の構図が生まれたことも見過ごせない。ロシア、そしてウクライナ侵攻を事実上容認する中国。2大国に近い新興国や発展途上国も多い上、インドのように中立と称する国もあって、足並みはそろわない。G7が主導するロシア包囲網に対しても、資源や食料の価格高騰に直面するアフリカなどの貧困国に懐疑的な声が広がる。

 3月のロシア非難決議に141カ国が賛成したのに対し、ウクライナから撤退を求めた8月の声明は57カ国しか名を連ねていない。冷戦終結後、醸成されてきた国際協調の空気が薄らぐことを深刻に受け止めたい。

 国連のグテレス事務総長は各国代表に先立つ演説で、世界の分断と安保理の弱体化を率直に認めた。その上でロシアへの直接の非難は控え、気候変動や食料危機といった地球規模の懸案で各国の協調を求めた。深刻化しているパキスタン大洪水の惨状が念頭にあるようだ。

 むろんロシアの振る舞いを国連として監視し、断固たる措置を取る姿勢は必要だ。一方で、その陰で埋没しがちな懸案では対話の道を広げておきたい。核拡散防止条約(NPT)再検討会議でロシアの反対から最終文書に合意できなかった核軍縮の問題も、そこに含まれる。

 いま各国に求められるのは国連が果たす役割を見つめ直し、現状を打開していくことだ。

 その中で岸田文雄首相の初の一般討論演説はどう受け止められたか。第一に力説したのは安保理の改革であり、交渉開始を提起した。年明けに日本は非常任国理事国となる。議論をけん引できるなら喜ばしいが、そう簡単な話ではない。かねて日本は常任理事国入りを念頭に国連改革を唱えてきた。自国の思惑は少なくとも切り離し、国連に貢献する気構えが要る。

 首相演説では核兵器のない世界への決意も唱えたが、「現実的な取り組みを進める」といういつもの言葉を繰り返し、新味はなかった。気候変動や貧困、疾病などの懸案も少し触れただけだ。世界の現状に危機感を強めるグテレス氏の思いに、どこまで応えているだろう。

 内閣支持率が急落している。首相には外交で挽回したい思いもあるようだ。ならば聞こえのいい国連改革もさることながら民生・医療や難民支援など地道な国際貢献に、もっと力を入れる姿勢も示してほしい。

(2022年9月22日朝刊掲載)

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