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原爆ドーム保存の歩み 法政大元教授の古川さん出版

 建築学が専門で法政大元教授の古川修文(のぶひさ)さん(81)=東京都西東京市=が、世界遺産の原爆ドーム(広島市中区)の保存の歩みを伝える「原爆ドーム 再生の奇跡」を出版した。保存工事を指揮した建築家の佐藤重夫さん(2003年に91歳で死去)が残した資料を活用。ドームをシンボルとした平和記念公園の整備や、残骸のまま補強する技術的な工夫を紹介している。

 古川さんは日本民俗建築学会の元事務局長。戦後に広島大教授に就き、「原爆ドームの主治医」と呼ばれた佐藤さんが生前に同学会の会長を務めていたため、親交があった。市公文書館(中区)や遺族の元に残る佐藤さんの資料を調べ、本にまとめた。

 戦後、ドームは存廃論議を経て市が1967年に最初の保存工事をした。古川さんは著書で、佐藤さんが当時の最先端材料のエポキシ樹脂の接着材をれんが壁に注入する新たな工法を市に提案し、形を変えずに補強することにつながった経緯を解説。費用確保のための募金活動など市民の後押しも振り返っている。

 また、資料の中から見つかった49年の平和記念公園の設計コンペの募集要項を写真付きで紹介。要項の表紙にはドームの絵があしらわれ、市が募集時からドーム保存を強く意識していたことが伝わる。

 晩年の佐藤さんがドームの在り方を考える委員会の設置を提案した文書も載せた。「(ドームは)被爆着衣と同様の悲しみそのものであり、それを悼む遺品」だとして、工学のほか倫理学や心理学など幅広い専門家の知見を保存管理に生かすべきだと訴えている。

 古川さんは「人類にとって20世紀最大の修理工事といえる。多くの人が関わったそのドラマを知ってほしい」と話す。南々社。2090円。(水川恭輔)

(2022年9月26日朝刊掲載)

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