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[考 国葬] 全国知事会長・鳥取県知事 平井伸治氏 無用な混乱 避けられた

 岸田文雄首相は、安倍晋三元首相が衝撃的な最期を迎え、世界から哀悼の言葉が届いたことから、国葬に値すると判断したかもしれない。しかし過去の例に照らし、落ち着いて考えていただいた方が無用な混乱は避けられたのではないか。

 ノーベル平和賞という明確な実績のあった佐藤栄作元首相でも与野党で評価が定まらず、結局は有志の「国民葬」になったと記憶している。最近は内閣・自民党合同葬が多い。広く議論をした上で、格付けを考えた方が適切だったのではないか。戦後に国葬令が失効し、法律的な位置付けがなくなっている。今後に向けて、国民各層が納得できる基準作りが必要だ。

 地方自治体側は、多かれ少なかれ安倍元首相にお世話になっている。礼儀として弔意を表するべきだと考える首長や議会の議長は多いと思う。さまざまな世論や背負うものがあると、純粋に故人に感謝をささげ、心静かに見送る場が台無しになる。混乱のない葬儀にしてほしかったというのが現場の本音ではないか。

 今回の国葬の現実は「‘国葬」(国葬ダッシュ)。政府から、地方自治体の弔意の表し方について要請がなく、基準が示されていない。戦前の国葬は、国民に等しく弔意を求める趣旨もあったと思う。看板は国葬でも、内実は内閣葬か、内閣葬以下。外国の弔問客が多いと見込み「ナショナル」にしたと思うが、国葬の2文字でくくれない。

 世論が国葬反対に傾いているのは、旧統一教会問題に尽きると思う。国葬に値するのかどうかという議論が後から湧き起こってしまった。政治の中枢でけじめをつけることが必要。国葬の前にきちんとした幕引きがなされてほしい。

 国葬には出席する。政府の主催する葬儀として案内を受けた。鳥取県は2016年の県中部の地震の復興支援など深い恩があり、県として弔意を示す必要がある。全国知事会が首相在任中にお世話になったことにも、知事会長として応える必要がある。公の行事なので公務、公費で行く以外に選択肢はない。

 歴代首相の前例を踏襲し、県庁に半旗を掲げ、県民に対して特別な案内はしない。それぞれの県民の気持ちで、弔意を表す、表さないは自由にしていただくのがいい。内実は「国葬ダッシュ」。従来よりも踏み込む特別なことを、あえてするつもりはない。(聞き手は小畑浩)

ひらい・しんじ
 61年東京都千代田区生まれ。東京大法学部卒。84年に自治省(現総務省)入り。鳥取県総務部長、同副知事、総務省政党助成室長などを経て、07年の同県知事選で初当選し4期目。21年9月から全国知事会長。

(2022年9月25日朝刊掲載)

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