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社説・コラム

社説 親露派の住民投票 支配の正当化許されぬ

 ロシアが大部分を制圧したウクライナ東部と南部の計4州できのう、親ロシア派勢力がロシアへの編入の是非を問う「住民投票」を強行した。27日までの予定で、編入賛成が多数となるのは明らかだ。ロシアが編入を宣言する可能性が高い。

 国際法に違反した侵略の末の住民投票で民意が反映されるはずもない。2014年にクリミア半島を強制編入した際と同じ手口である。断じて許すことはできない。

 支配の正当化をもくろむプーチン大統領主導の住民投票であるのは明らかだ。戦争継続の口実と見ることができる。

 先日の演説で住民投票を支持すると述べ、同時に30万人の予備役招集を表明した。編入後の4州が攻撃を受ければロシアへの攻撃と見なし、核兵器の使用を辞さない姿勢も示した。背景にあるのは苦しい戦況と、反戦機運の高まりによるロシア社会の混迷だろう。

 戦場となった4州では国内外に避難した人が多い。東部では拷問の末に殺害された多数の遺体が見つかった。残る住民を恐怖に陥れて行う住民投票に道理はない。ロシア側が武装組織を編成し、投票を強制するため戸別訪問をしているとの情報もある。票を操作することさえ、あり得よう。

 プーチン氏は2月、親ロシア派が実効支配するウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」の独立を一方的に承認し、ウクライナに侵攻した。しかし、その後に占領した南部のへルソン、ザポロジエ両州などとともに編入には言及してこなかった。

 ここにきて急に方針を転換したのは、プーチン氏の焦りとの見方がある。

 ウクライナの反転攻勢に押されて兵力不足に陥った。ロシアの立場に理解を示してきた中国やインドも情勢に懸念を表明。片やロシア国内では戦闘長期化を受け、地方議会や財界などから反戦の声が上がり始めた。

 このため占領地域の「ロシア化」を急ぐ必要があった。領土拡大を国民に戦果として示すとともに、軍の態勢を立て直し、長期戦に備える狙いがあるのではないか。国際的な孤立をさらに深めるのは確実だ。

 見過ごせないのは、プーチン氏が「わが国にはさまざまな破壊手段があり、領土保全が脅かされれば、あらゆる手段を講じる。はったりではない」と述べたことだ。

 核兵器使用を排除しないとの威嚇であり、その矛先はウクライナだけでなく、軍事支援する米欧にも向く。核戦争の危機をあおるだけであり、言語道断である。

 ただし、劣勢の戦況打開がプーチン氏の思惑通り図れるかどうかは分からない。

 予備役招集についても、動員令が発表されると、ロシア国内で侵攻や動員に抗議するデモが各地で起きた。千人以上が拘束されたという。政権がデモを徹底弾圧しているにもかかわらず、戦争に巻き込まれることへの嫌気や将来への不安、核戦争の恐怖が社会に広がっていることが浮き彫りとなった。

 戦争をエスカレートさせれば双方の犠牲はさらに膨らみ、停戦は遠のくばかりである。プーチン氏は危険な挑発をすぐさまやめるべきだ。

(2022年9月24日朝刊掲載)

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