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[考 国葬] 広島弁護士会会長 久笠信雄氏 法的根拠欠き財源疑問

 安倍晋三元首相の国葬は二つの大きな問題がある。法的な根拠を欠いていることと、財政立憲主義に反することだ。広島弁護士会として14日、この2点を指摘し、国葬に反対する会長名の声明を出した。

 これは政治的な声明ではない。弁護士会にもいろいろな立場の会員がいるが、声明への異論はなかった。一般の法律家の視点で見て、国葬実施はあまりに早急過ぎるという印象を皆持っているということだ。

 行政は権限を配分する法律に基づいて仕事をするが、権限があるからといって何でもできるわけではない。国葬実施の根拠について、政府は「国の儀式に関する事務」を内閣府の所掌として定めた内閣府設置法を挙げる。ただ、国の儀式に国葬が含まれる法的根拠はない。例えば、国税庁に税を徴収する権限があるからといって、法律で決められていない税を徴収すると大問題になるのと同じ話だ。

 時限立法でもいいので、しっかり準備して国会での議決を経ておけば問題はなかった。しかし今回は、国会での議論も経ずに閣議決定してしまった。

 内閣が行政を行うには法の裏付けが必要であり、支出を伴うものは予算の形で国会の承認を得るのが、この国の行政の進め方のルール。これが財政立憲主義だ。その点では、予備費などから16億6千万円を充てるという国葬の財源にも疑問がある。

 災害などの急を要する事態への支出であれば受益者は限定されず、大した額ではないかもしれない。ただ、特定の個人のために16億円を支出するとなると行政の公平性の問題がある。

 国葬は本来、国民の統合を深めるための儀式として実施するべきだ。だが、安倍元首相の国葬実施については国民の意見が割れ、かえって分断を深める結果となった。先のエリザベス英女王の国葬とは対照的だ。懸念するのは、国葬後に支出を違法として訴訟を起こす動きが頻発すること。仮に自治体の長が公費で国葬に出席した場合、出張旅費を認めるなという訴えが出てもおかしくない。

 重要な事柄だからこそ、時間をかけて議論するべきだった。「聞く力」を掲げる岸田文雄首相の判断としては残念。国民の権利を制限し、新たに義務を課す場合以外は法律によらなくてもいいという考え方ならば、それは「ご都合主義」であり認められない。(聞き手は堅次亮平)

くがさ・のぶお
 51年広島市西区生まれ。広島大文学部を卒業し、東京の保険会社に勤めた後、92年に40歳で弁護士登録。今年4月、広島弁護士会会長に就任した。社会福祉の課題に詳しく、特に障害者を巡る事案に注力してきた。

(2022年9月23日朝刊掲載)

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