×

ニュース

繰り返される核の歴史 提起 原爆の図丸木美術館 蔦谷楽さん「ワープドライブ」展

膨大な情報 ユーモラスに

 核の歴史にアートで向き合う米ニューヨーク在住の美術家蔦谷楽(つたやがく)さん(47)の国内初の展覧会「ワープドライブ」が埼玉県東松山市の原爆の図丸木美術館で開かれている。日本の美術大学で学び、渡米した蔦谷さん。双方の視点から、理不尽なシステムと繰り返される歴史を冷静かつユーモラスな手法で浮き彫りにする。(渡辺敬子)

 日米で核の専門家や被害者への聞き取り、博物館などでの調査を重ねた。マンハッタン計画に始まる核兵器の歴史を描く47枚の絵画シリーズ「くものいと」は19枚を展示。墨汁と鉛筆で緻密に描き込まれ、一見すると漫画や絵本のような親しみやすさが漂う作品には、膨大な情報量と痛烈な皮肉が込められている。

 シリーズのうち「冒涜(ぼうとく)」は政治家をゴキブリ、国際原子力機関(IAEA)をスズメバチ、軍人をバッタ、武器メーカーを軍隊アリ、物理学者を植物、医者をハエ、マスメディアを蚊に置き換え、密室でギャンブルに興じる姿を戯画化する。

 広島で入市被爆した新井俊一郎さんとの対話に基づく「伝書鳩」「地獄を歩く」、原爆傷害調査委員会(ABCC、現放射線影響研究所)を題材にした「機密標本たち」もある。「230,000,000ドルの村」「風下」には、プルトニウムを生産した米ワシントン州ハンフォード核施設の元労働者や周辺住民の声が反映されている。

 シリーズを発展させた56分の映像作品「エノラズヘッド」は「ハワイ・トリエンナーレ2022」にも出展した。核開発、原爆投下、水爆実験、内部被曝(ひばく)、核廃棄物…。一つ一つに重みのある核を巡る史実を大胆にかみ砕き、同一線上に並べて一気に駆け抜ける。今回は戦後の広島に建てられたバラックと米国の日系人収容所をイメージした小屋の壁面に投影される。

 企画した岡村幸宣学芸員は「いい意味で当事者意識から遠く、広島の被爆者にも米国の先住民にも公平で冷静な距離感がある」と評する。その上で「人種や国籍という先入観を解きほぐし、社会システムが抱える問題を提起している。新しい世代による想像力が生まれつつある」と話す。

 27日午前10時から、蔦谷さんが作品について語るオンラインのイベントがある。美術館の公式ユーチューブで配信する。展覧会は10月2日まで。丸木美術館☎0493(22)3266。

(2022年9月23日朝刊掲載)

年別アーカイブ