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連載・特集

モルドバ大使からの報告 片山芳宏 <3> 外交を支える料理人

客人の食習慣 味な対応

 海外に駐在する日本の大使たちは、公費による一部援助も得て公邸で腕を振るう料理人を雇い入れます。私も今年2月、髙村哲也シェフ(39)と妻の里佳さん(38)と共にモルドバに着任しました。

 各大使は公邸での会食を通じて任地での人脈を広げたり、公邸で文化行事等を開催する際に日本食を紹介したりします。そのような活動を円滑に進めるために料理人は欠かせません。

 先日、日本の大切な友好国の大使夫妻とお嬢さんを公邸にお招きするのに先立って、いつものように食材などに制約をお持ちでないか先方に照会しました。

 回答はこうでした。「大使は、白身魚にはアレルギーあり、野菜数種を食さない。砂糖も小麦粉も使用不可。夫人は、米もパスタも、そしてパン、ジャガイモも食べない。夫妻共に生魚は不可」。

 私の前任地はケニアでしたが、イスラム教徒の方々に豚肉は提供できませんし、インド系のお客様には野菜しか食べないベジタリアンの人たちも多かったので様々な工夫をしていました。しかし、砂糖も小麦粉も使えないことも含め、こんなに多くの条件を課されたのは初めてでした。

 なかなかの難題を前に、私と髙村シェフは2人でじっくり対応を練りました。その結果、ココナッツ・シュガーやアーモンド・パウダーなども駆使して様々な料理をお出しして、お客様たちはとても満足して帰宅されました。全ての料理を写真にも収めていた大使夫人からは「2年間のモルドバ駐在期間中で最もおいしい料理だった」との言葉もいただきました。

 髙村シェフは福山市神辺町出身です。市内の調理師専門学校を出て、地元せとうち料理の名店「春秋」で日本料理の腕をじっくり磨き、その後は西洋料理も熱心に勉強したオールラウンドプレーヤー。昨年まで都内にお店を構えていましたが、料理の幅を広げたいとの希望から公邸料理人に応募。初めての出会いは今年1月、外務省の仕事を支援いただいている国際交流サービス協会の紹介でお目にかかりました。本当に、これもご縁ですね。

 ところで、一体どんな料理を出したのかって?

 それは企業秘密です。今回も髙村料理人が緻密な戦略と抜群の腕前で見事に私の外交活動を支えてくれました。ブラボー、髙村シェフ!

かたやま・よしひろ
 1957年、広島市佐伯区生まれ。廿日市高校を経て立命館大経済学部卒。80年外務省入省。ルーマニア、米ニューヨーク、ウクライナ、ケニアなどの大使館、総領事館で勤務。外務本省では地球環境問題や海賊対策を含めた海洋問題なども担当した。2020年2月から現職。被爆2世。

(2020年10月25日朝刊セレクト掲載)

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