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モルドバ大使からの報告 片山芳宏 <5> クリスマスは2回ある?

正教の聖夜彩る歌や食

 欧州の12月はクリスマスを祝う季節です。さまざまな街に飾り付けがあふれます。各地の歴史や文化に基づいた独特の風習、過ごし方が見られます。

 実はモルドバでは、公式にクリスマスと認められた日が2日あります。12月25日と1月7日です。一体どういうことでしょうか?

 まず、国民の大半が正教を信じるモルドバの人々にとっては、ロシアやウクライナなどと同じく、1月7日が伝統的なクリスマスです。前日6日の夜から7日にかけて行われる夜間の礼拝に大勢が参加して、キリストの誕生を祝います。

 一方の12月25日は、2009年になって初めて公式にクリスマスとして祝日になりました。これは、欧米諸国などとの間で各種の交流も格段に高まったことを受けて決定されたものと聞いています。

 さて、今回はモルドバの人々が昔からお祝いしてきた1月7日のクリスマスを彩る風習を二つ紹介します。

 一つは、キリストの誕生を歌で知らせるというもの。歌は「コリンダ」と呼ばれます。お隣のルーマニアでも同様に見られる風習ですが、その歌詞やメロディーには各地それぞれの特色があります。

 前日6日、民族衣装をまとった子どもや親たちが星の形をした飾りを掲げ、町や村の家々を回って歌い、それぞれの家庭でその年の健康や繁栄を祈ります。コリンダを歌い終えた子どもたちには、家庭側から感謝の印としてお菓子や、わずかばかりのお小遣いが与えられます。

 風習はもう一つ。クリスマス当日の7日は、家族が集まり、お母さんたちが腕によりを掛けたごちそうを食べます。西欧諸国などに出稼ぎ中の親戚たちも多くが帰省するそうです。

 宗教的な意味合いも含めてこの日までの数週間ほどは、肉や乳製品などを口にしない人も多くいます。が、7日の晩餐(ばんさん)でその制約からようやく解放され、特に豚肉を使った料理を楽しみます。

 郷土料理として知られる「サルマーレ」も欠かせません。豚のひき肉とご飯を混ぜ、キャベツに包んで煮込みます。モルドバ特産のおいしい赤ワインもたくさん飲みます。こうして新たな年が始まるのです。

 年の初めに家族が集まってごちそうを囲み、全員の健康と幸せを祈ること。日本とモルドバは遠く離れ、歴史や文化も大きく異なりますが、新たな年を迎えた気持ちは同じと言えそうです。21年、世界中の誰もが幸せになれますように!

かたやま・よしひろ
 1957年、広島市佐伯区生まれ。廿日市高校を経て立命館大経済学部卒。80年外務省入省。ルーマニア、米ニューヨーク、ウクライナ、ケニアなどの大使館、総領事館で勤務。外務本省では地球環境問題や海賊対策を含めた海洋問題なども担当した。2020年2月から現職。被爆2世。

(2020年12月27日朝刊セレクト掲載)

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