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連載・特集

モルドバ大使からの報告 片山芳宏 <7> ささやかなお手伝い

民主主義培う選挙監視

 モルドバ共和国は、旧ソビエト連邦が崩壊した後に独立した国々の一つです。1991年8月の独立から今年で30歳。若い国です。

 こんなモルドバが新たな国造りを進めるためには何が必要でしょうか。まずは、国内の諸制度の根幹を作り基本的人権を保障するための憲法の制定、民主主義制度の基盤を構成する議会制度、そして誰に対しても公平な司法システムの構築などが欠かせません。さらに、長期にわたり社会主義体制の下で続いてきた計画経済を基本とするシステムを、日本と同じような市場経済の仕組みに変えていくことも重要です。

 もちろん、これらの事柄を同時に進めて行くことは誰にとっても容易ではありませんので、これまで長期にわたって欧米諸国や日本政府などがさまざまな形でモルドバへの支援を続けてきているわけです。

 さて、今回私たちが行った活動は「選挙監視活動」と呼ばれるものです。比較的に歴史の短い国々、あるいは紛争により混乱が生じた地域などにおいて、国家元首や国会議員の選出のための選挙が民主的な規則に従い、公正に行われることを監視する活動です。

 具体的には、モルドバ大統領を選ぶための選挙の決選投票が行われた昨年11月15日、民主主義の確立と基本的人権の保障に従事する欧州安保協力機構(OSCE)などの国際機関や首都キシナウに所在する各国大使館などと同様に、国内の投票所を巡回して監視活動を行いました。

 日本大使館からは私を含めて5人が参加しました。いずれの投票所でも身分証明書の提示を通じた選挙権の確認、投票箱が封印されているかなどの関連設備の点検、さらに投票活動が平穏に実施されているかなどをチェックしましたが、特に問題は発見されませんでした。

 そして、選挙結果は最終的に12月10日にモルドバ憲法裁判所によって正式に認められ、マイア・サンドゥ候補の当選が確定しました。任期は4年間です。

 私たちが行った選挙監視活動は、見方次第ではほんのささやかなものと映るかもしれません。しかし、国際機関、日本を含む各国大使館、非政府組織(NGO)など、さまざまな人々が選挙監視活動に携わることが事前に広報され、その通りに実行されたことによって、投票を巡る大規模な不正が防げたと考えられます。私は日本政府もささやかではあっても、モルドバの民主主義の成長に貢献できたものと信じています。

 昨年12月24日、サンドゥ新大統領の就任式が行われ、会場にはモルドバ駐在の各国大使も招かれました。就任演説の中でサンドゥ大統領は、国民が一致団結して豊かで公正な社会をつくる必要性を誠実に呼び掛けました。心に響く印象的なスピーチでした。

 サンドゥ大統領は現在48歳。この国で初の女性大統領の誕生です。若いモルドバ共和国の歴史に、またひとつ新たな1ページが加わりました。

かたやま・よしひろ
 1957年、広島市佐伯区生まれ。廿日市高校を経て立命館大経済学部卒。80年外務省入省。ルーマニア、米ニューヨーク、ウクライナ、ケニアなどの大使館、総領事館で勤務。外務本省では地球環境問題や海賊対策を含めた海洋問題なども担当した。2020年2月から現職。被爆2世。

(2021年2月28日朝刊セレクト掲載)

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