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連載・特集

モルドバ大使からの報告 片山芳宏 <10> 笑顔づくりの直接協力

農村に給水所 脱重労働

 日本政府が行っているさまざまな開発協力の中から、「草の根人間の安全保障無償資金協力」(通称・草の根無償)というスキームをご紹介します。

 2016年10月28日、ケニアの大使館で勤務していた私は、首都ナイロビを早朝の便でたちました。1時間余りのフライトの後、さらに3時間ほど起伏の激しい丘陵地帯を四輪駆動車で西方に向かいました。着いたのはウガンダとの国境に程近いウゲニャ県。草の根無償で実現した「カラドロ村給水計画」の完成式典に参加するためでした。

 アフリカの多くの国々と同様に、ケニアでも水を巡る状況は深刻です。ナイロビなどわずかな大都市などでは水道が広く普及している一方、地方の農村部にとって水の確保はいまだに難題です。

 カラドロ村でも、生活に必要な水を得るのは各家庭のお母さんたちの仕事。バケツなどの容器を持って、数キロの道のりを歩いて川に向かいます。ただし、砂ぼこりなどが含まれている川の流水をそのまま持ち帰るわけにはいきません。

 まず河川敷に穴を掘ります。湧き水の中で小さなごみや砂などが沈殿するのを待ち、上澄みのきれいな水だけを少しずつ集めます。この作業を何時間も続けた後、合計10キロ前後にもなる水の入った容器を両手に抱え、あるいは頭の上に載せて自宅に戻ります。

 この重い負担を解消するため、カラドロ村一帯に近隣のダムから水を引く建設事業を、日本政府の資金で進めました。全長5、6キロの導水管を敷設。給水所5カ所と給水塔なども造りました。

 完成式典では村長や地域住民の代表者から深い感謝の気持ちが示されました。筆者もあいさつの中で、日本国民の税金を使って供与されたこの設備を大切に活用すべく、メンテナンスもきちんと行ってほしいことなどを述べました。

 この式典で最も印象に残ったこと。それは、今後は給水所を訪れるだけできれいな水を簡単に入手できることとなった、たくさんのお母さんたちが満面に浮かべた笑みです。

 草の根無償を通じた援助は、大使として赴任した、ここモルドバでもこれまでに医療や教育分野を中心に70件以上が実施されています。多数の応募書類の精査から始まり、実地検査や面接などを経て、案件の内容や主催団体の能力なども含めて厳しい審査を進め、最終決定に至ります。

 途上国の住民が直接に恩恵を受けることを目指し、大使館が現地のニーズをしっかりと把握しながらつくり上げていく「草の根無償ラドロ村のお母さんたちが見せてくれたような笑顔が、より多くの人たちにも広がることを期待しながら、有益な案件の実施に向けて日々努力を続けています。

かたやま・よしひろ
 1957年、広島市佐伯区生まれ。廿日市高校を経て立命館大経済学部卒。80年外務省入省。ルーマニア、米ニューヨーク、ウクライナ、ケニアなどの大使館、総領事館で勤務。外務本省では地球環境問題や海賊対策を含めた海洋問題なども担当した。2020年2月から現職。

(2021年5月23日朝刊セレクト掲載)

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