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連載・特集

モルドバ大使からの報告 片山芳宏 <11> 日本語教育と文化紹介

次世代の交流育む財団

 首都キシナウ市にあるモルドバ国立大のキャンパス。一つの校舎の入り口には、モルドバ国旗と日の丸が描かれた掲示板が掲げられています。「モルドバ日本交流財団」。この国で唯一、日本の言葉と文化を学べる場所です。

 創立者は同市出身のバレリウ・ブンザル氏(56)。国際関係を研究して博士号を取得した後、モルドバ政府に入りました。

 日本に関心を持ったきっかけは、経済・改革省勤務時代に実現した自身初の訪日でした。国際協力機構(JICA)による地域開発マネジメントに関する研修に参加して約3カ月間滞在。この経験を通じて、日本への関心が急拡大し、母国との関係発展に貢献したいとの意思で、37歳だった2002年に私財を投じて財団を設立したのです。

 以来、財団は20年近くにわたり数多くのモルドバ市民に日本語学習の場を提供するとともに、日本文化の紹介活動にも積極的に取り組んできました。日本大使館も日本語弁論大会の開催などさまざまな形で財団をサポートしてきたことは言うまでもありません。そして18年、ブンザル氏には日本政府から外国人叙勲の栄誉も与えられました。

 長引くコロナ禍の中でも財団は工夫を凝らして活動を継続中です。昨年に続いて今年も日本語弁論大会は予定通り開催されました。これだけ長期間にわたって財団を効果的に運営してきたブンザル氏の英知とバイタリティーは、本当に素晴らしいものです。

 そして今、未来に向けて私が実現を望むのは、大学での日本語講座の開設です。この国の学生たちの中には外国企業への就職や留学を希望する者が多くいます。外国文化への関心が非常に高いこともあり、モルドバの各大学は文系、理系を問わず語学教育に力を入れています。現在では中国語も韓国語も本国政府から派遣された専門家が大学の講座で指導を行い、毎年卒業生を輩出しています。

 昨年6月、海外における日本語教育の充実の必要性などを骨子とする文書が閣議決定されました。日本との交流の担い手を育て、日本に対する理解と認識を深めることを通じて諸外国との友好関係の基盤をつくっていく上で、海外での日本語教育はとても重要です。

 大使としてこの国に着任した20年2月以降、私はさまざまな方々から大学での日本語講座設置への要望を受けてきました。モルドバの大学で、日本語の専門家による日本語教育の早期実現が期待されます。

かたやま・よしひろ
 1957年、広島市佐伯区生まれ。廿日市高校を経て立命館大経済学部卒。80年外務省入省。ルーマニア、米ニューヨーク、ウクライナ、ケニアなどの大使館、総領事館で勤務。外務本省では地球環境問題や海賊対策を含めた海洋問題なども担当した。2020年2月から現職。

(2021年6月27日朝刊セレクト掲載)

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