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[考 国葬] 「実績を再認識」「意義分からぬ」 識者たち 賛否割れる

 賛否が割れる中、27日に営まれた安倍晋三元首相の国葬。各界の識者たちはどう受け止めたのか。中国新聞のインタビュー連載「考 国葬」に登場した経済人や学生たちに聞いた。

 国葬に参列した山口経済同友会元代表幹事の柏原伸二さん(72)=岩国市。追悼の辞で触れられた業績や各国代表団の多さから「実績の多い人だと再認識し、特に海外での評価の高さを感じた。あらためて惜しい人を失ったと実感した」と悼んだ。

 一方、広島大大学院准教授の川口広美さん(39)=社会科教育学=は「ネット中継で見たが、通常とは異なる国葬にした意義は分からなかった」と強調する。「国葬でないと駄目という説得力を持ったかと言うと、それは難しい」

 「反対を抑え込んで強行したやり方に不安を覚える」と話すのは、日本被団協代表委員の箕牧(みまき)智之さん(80)=広島県北広島町。「岸田文雄首相は今、国民の声を聞く姿勢をなくしているようにも見える」と疑問を呈した。

 映画監督の想田和弘さん(52)=瀬戸内市=は国葬を政治的プロパガンダと捉え「誰の国葬でも反対」との立場。「中継を見た人がどれだけ冷静に受け止められるかが鍵。やはり反対の人もいれば、心動かされた人もいるかもしれない。世論の動き方で岸田政権の命運も変わってくる」とみる。

 若者の政治参加を促すNPO法人ドットジェイピー(東京)広島第二支部メンバーで広島大生の徳間将汰さん(21)=東広島市=は「今後また国葬が議論されることがあれば、岸田首相がほぼ独断で決めたような今回のプロセスは改められるべきだ」と力を込めた。

[考 国葬] 識者たちの受け止め詳報

各国との信頼構築の「成果」

賛成しないが、あってもいい

死の政治利用に参加しない

 「8年8カ月間、首相の重責を担い、各国との信頼構築に全力を注いだ『成果』だ」。27日、安倍晋三元首相の国葬が営まれた東京・日本武道館。列席した210を超える国・地域・国際機関の代表団約700人の姿を目にした山口経済同友会元代表幹事の柏原伸二さん(72)は、感慨深そうに語った。

 安倍氏と親交があり、岸田文雄首相や菅義偉前首相が追悼の辞で触れた人柄にも共感したという。「威張らず、誠実で優しい人だったと。私も同じ思いで接していた」。会場周辺の反対デモも見たが「批判があるのは、大きな局面で勇気ある決断をしてきた表れ」と受け止めた。

 一方、この日に至るまで開催に否定的な意見は根強くあった。特に批判の矛先が向いたのは、岸田首相が国民や国会への説明が不十分なまま国葬を決定したプロセスだ。

 広島大大学院准教授の川口広美さん(39)はこの点に疑問を呈してきた。ネット中継を見た上で「反対する国民からすると『どうせやるんでしょ』という感じで、諦めすら超えている雰囲気があった」と振り返る。「政治的無関心がますます助長されてしまう」とし、今後の説明や対話の努力を求めた。

 「安倍政権の核政策は被爆者の願いと懸け離れていた」として国葬に否定的だった日本被団協代表委員の箕牧(みまき)智之さん(80)もこの日、国葬の中継を見守った。「反対運動もあったようだが、心の中で反対していた人はもっと多かったはずだ」とみる。

 岸田首相は来年5月、被爆地の広島市で先進7カ国首脳会議(G7サミット)を控える。「国葬を終えた後に岸田首相がどう核兵器廃絶に取り組むのか、しっかり見ていきたい」と力を込めた。

 NPO法人ドットジェイピー広島第二支部メンバーで広島大生の徳間将汰さん(21)は国葬中、大学の講義を受けていた。終わった後にウェブ上でニュースを少し読んだが、国葬は友人との話題にも上がらなかったという。「国葬に積極的に賛成ではないが、あってもいい。その考えは今も変わらない」

 映画監督の想田和弘さん(52)は、瀬戸内市の自宅で普段と変わらない一日を過ごした。雑誌の原稿を書いたり、昼寝をしたり。国葬は見ていない。「中継を見るのは疑似的に参列するのと同じこと。人の死を政治利用する行為には参加したくない」と語った。

 想田さんが注視するのは「国葬後」だという。法的根拠が薄弱なまま実施したことがどんな影響を与えるのか。岸田政権の言う「弔問外交」が本当に成果を上げるのか―。「国民が冷静に振り返ることができるよう精査してほしい」と報道機関にも注文した。

(2022年9月28日朝刊掲載)

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