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社説・コラム

天風録 『たいそうな葬式』

 コロナ禍で集まりにくさもあるためか。小さな斎場でコンパクトに営む葬儀が広まる。これまで葬式と言えば、葬儀社との打ち合わせや弔問客への対応などで慌ただしかった。悲しみに暮れる間もなく、時が過ぎた▲たいそうな葬式すんで秋高し(仙田洋子)。式を終えた後の寂しさや、ある種のすがすがしさが伝わる一句である。「国葬」が済んだ今はどうか。死を弔う儀式なのに、ごたごたの末に営まれた。どこか空虚さが漂う▲国内外4千人以上が参列、警備に約2万人、総費用は16億円以上―。たいそうな葬式である。在任期間が歴代最長の安倍晋三元首相の死を受け、早々と閣議決定された国葬。しかし国会で審議することもなく、法的手続きを疑問視する声は多い▲世論調査でも反対が半数を超えた。モリ・カケ・サクラの疑惑に元首相の説明は不十分と感じる国民は少なくない。非業の死だったが、霊感商法など問題のあった旧統一教会との関係が指摘されるや、風向きが変わる▲素直に悼むことができない人もいたはず。「国葬」が分断を招いたのではないか。民主主義と離れたところで営まれた感がある。たいそうな葬式を巡るもやもやを忘れずにいよう。

(2022年9月28日朝刊掲載)

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