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首相、民意読み誤る 支持率陰り どう打開

 国民の賛否が割れる中、安倍晋三元首相の国葬に踏み切った岸田内閣の支持率が急落している。10月4日に政権発足1年の節目を迎える岸田文雄首相の足元はどんな状況で、いかなる課題が待ち受けるのか。政界で知られた「法則」と「理論」を当てはめると、如実に浮かび上がってくる。(下久保聖司)

 「青木の法則」なる政局予測術がある。内閣と与党第1党の支持率の合計が50%を割ると、政権が倒れるというものだ。島根県を地盤とし、平成の世に「参院のドン」と名をはせた青木幹雄元官房長官が経験則から編み出したとされる。

 岸田内閣の支持率は昨秋の発足以降、右肩上がりで時に6割を超えることもあった。それが今月、各種世論調査でがくっと落ちた。時事通信の世論調査(9~12日)によると、内閣支持率は前月比12・0ポイント減の32・3%、自民党支持率は1・9ポイント減の22・4%。足すと54・7%で、永田町の面々が「青木の法則」を想起することになった。

 一方で、共同通信の世論調査(17、18日)では内閣支持率40・2%(前月比13・9ポイント減)、自民党支持率39・3%(同1・3ポイント減)で計79・5%だった。報道各社の世論調査は幅が生じるとはいえ、これまた政界で「危険水域」とされる内閣支持率30%のラインが迫っていることも現実だ。

 どう浮揚を図るか。国葬や旧統一教会問題への国民の不満や不信感は根強い。新型コロナウイルス対応や円安・物価高対策で地道に成果を上げるしか道はない。ただ防衛費引き上げなどが焦点となる秋の臨時国会に当たり、首相の不安材料は理想の政権運営モデル「楕円(だえん)の理論」が崩れたことだろう。

 自民党派閥・宏池会(現岸田派)の先輩で1978~80年に政権を担った大平正芳氏はこう唱えたという。中心が二つある方が一つよりも安定する―と。

 行政府の長である岸田首相は党内最大派閥を率いる安倍氏との調整を軸に着地点を探ってきた。突如消えた片方の中心。独り立ちの機会とするか、党内波乱につながるか、首相の胆力や手腕が問われる。

 7月の参院選勝利で手に入れた「黄金の3年間」。衆院を解散しなければ2025年まで国政選挙はない。裏を返せば、内閣支持率は国民の反応を知る貴重な手段だということだ。

 政治記者が近寄りやすかった首相就任前の岸田氏は、報道各社の世論調査の数字をそらんじてみせた。強硬な政治手法で分断を生んだ安倍政権を反面教師とし、掲げたのが「聞く力」。今回の国葬に当たってはモットーを自ら否定する形となった。信頼回復には原点に立ち返るしかない。

(2022年9月28日朝刊掲載)

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