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社説・コラム

社説 日中国交正常化50年 友好の知恵 絞る契機に

 日本と中国が国交を正常化させてきょうで50年となった。両国が先の戦争を乗り越え、友好を深めることを共同声明で約束してから半世紀の節目である。

 共同声明の6年後には平和友好条約も締結された。日本の政府開発援助(ODA)が中国を支える良好な関係が昭和の時代は一貫して続いた。友好の証しにパンダ2頭がやって来た東京・上野動物園の大行列を覚えている人も多かろう。

 だが最近の日中関係には寒々とした雰囲気が漂う。岸田文雄首相は昨年10月の就任直後に習近平国家主席と電話会談しただけ。対面による首脳会談は3年近くも開かれていない。

 両国が歴史的、経済的に重要な隣国同士であることは論をまたない。半世紀前の原点に立ち返って対話を重ね、共に発展する友好関係を再構築すべきだ。

 共同声明には「平和共存」「友好」「反覇権」がうたわれ、日本は中華人民共和国政府を中国の唯一の合法政府であると承認した。

 中国は日本への戦争賠償請求を放棄し、沖縄県・尖閣諸島には触れず「棚上げ」した。双方が歩み寄ったのは平和共存を最優先したから。その苦労を私たちはよく理解する必要がある。

 ただ、この半世紀で日中の立場は大きく変わった。日本の3分の1に過ぎなかった中国の国内総生産(GDP)は日本の3倍になり、日本を抜いて世界第2の経済大国にのし上がった。

 その勢いもあるのか中国は覇権主義的な姿勢を強め、南シナ海にも強引な海洋進出を続けている。新疆ウイグル自治区や香港の人権問題に対する国際社会の批判にも耳を貸さず、ペロシ米下院議長の台湾訪問の際は日本の排他的経済水域(EEZ)に弾道ミサイルを撃ち込んだのは許しがたい。

 日中関係が良好だった時期に最高実力者だった鄧小平氏は「中国は永遠に覇を唱えない。現在だけでなく、強国となっても決して唱えない。これが国是だ」と来日時の会見で誓っている。中国政府はその国是をもう一度思い返してほしい。

 尖閣諸島を巡る関係もこじれている。漁船で海上保安庁の巡視船に体当たりした中国人船長が逮捕されたこともある。日本政府による国有化で関係がさらに悪化したのはちょうど10年前だ。現場海域に中国船がたびたび侵入する現状はとても容認できない。

 ただ、日本にも冷静な対応が求められよう。軍事力増強を進める中国を意識し、政府が防衛力増強に前のめりになるのは賢明さを欠く。米国に追従しているとしか思えない、安易な防衛費倍増の議論は地域の緊張を高めるだけだ。日本は専守防衛が原則であり、対話による解決に力を尽くすべきだ。それが平和国家としての使命でもあろう。

 鄧氏は「次の世代にはもっと知恵がある」と述べている。それが軍事力の増強合戦だったとすれば、私たちの世代に託した先人に合わせる顔もなくなる。

 まずは首脳会談の実現を急いでもらいたい。高官級協議で先月、対話継続の方針を確認したことは前進だが、やはり両首脳が顔を合わせ、率直に意見交換することに勝るものはない。時代に応じた新しい関係を築くために、50年の節目を生かす努力が両国には欠かせない。

(2022年9月29日朝刊掲載)

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