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モルドバ大使からの報告 片山芳宏 <12> セーシェル外相と古里へ

ヒロシマの願いを共有

 セーシェル共和国はアフリカ大陸の東方約1600キロに浮かぶ島国。漁業と観光が主要産業で、人口は約10万人。首都ビクトリアの所在するマヘ島を中心に115の島々がつくり出す景色は美しく、「インド洋の真珠」とも呼ばれます。

 このセーシェルのビンセント・メリトン副大統領兼外相(当時)が2018年12月に日本を訪問しました。その頃、この国に日本大使館がなくケニアの大使館が担当していたため、そこに所属していた私がメリトン外相に随行することになりました。

 訪問は京都から広島に向かい、外相会談などが行われる東京での諸行事を含めて1週間の日程でした。私にとっては外務省入省後初の古里広島での仕事にもなりました。

 一行が広島に到着したのは12月3日の朝。小曇り空の下、フェリーで宮島(廿日市市)へ渡りました。メリトン外相夫妻たちは海上に広がるカキいかだに驚いたのに続き、深い霧の中から現れ出た朱の大鳥居、そしてその後方に広がる厳島神社の美しさに息をのんだ様子でした。また、厳島神社では和服姿の七五三の子どもと、結婚式を終えたばかりのカップルにも出会い、日本文化の一端を紹介する機会にもなりました。

 午後、一行は広島市内中心部の宿舎から歩いて原爆ドーム、原爆の子の像を訪ねて案内を受けた後、原爆慰霊碑前に花をささげ、原爆資料館でさまざまな被爆資料や遺品などを見学しました。そして、小倉桂子さんから被爆体験を聞きました。優しい響きの英語による語り掛けはとても分かりやすく、広島への原爆投下によって多数の罪のない人々を襲ったさまざまな状況を詳しく説明していただきました。

 滞在中、一行は昼食に焼きがきや穴子飯などを堪能し、夕方には本通り商店街をゆっくり散策しながらお好み村に向かいました。私も幼い頃から大好きだったお好み焼き。鉄板を囲んだ一行も大満足でした。

 河野外相(当時)と同月5日に開催された、日セーシェル外相会談も中身の濃いものとなり、一行は7日夜に羽田空港を後にしました。飛び立つ前、メリトン外相自身は私にこう語りました。「訪問中にお世話になった皆さまの心遣いに感謝したい。外相会談を通じて両国関係の緊密化に貢献できたこと、京都で伝統文化に触れることができたこと、そして、原爆資料館を訪問した広島では改めて世界の平和について考える機会となり極めて有意義だった」

 わずか1日という短い滞在でしたが、メリトン外相は広島滞在を満喫し、そして平和を願う私たちの気持ちをしっかりと受け止めてくれたようでした。

かたやま・よしひろ
 1957年、広島市佐伯区生まれ。廿日市高校を経て立命館大経済学部卒。80年外務省入省。ルーマニア、米ニューヨーク、ウクライナ、ケニアなどの大使館、総領事館で勤務。外務本省では地球環境問題や海賊対策を含めた海洋問題なども担当した。2020年2月から現職。

(2021年7月18日朝刊セレクト掲載)

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