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連載・特集

モルドバ大使からの報告 片山芳宏 <15> ダンス大国で修業

夢は「世界一」 練習に熱

 競技ダンスはワルツやタンゴなどスタンダード部門5種目と、チャチャチャやルンバなどラテン部門5種目で競うスポーツ。競技会では優雅さや力強さなどの観点から審査員が採点、順位が決まります。この競技ダンス、モルドバ共和国は世界的な強豪国なのです!

 例えば、毎年8月にドイツで開催されるジャーマンオープン選手権(GOC)は、年齢に従ってジュニアからシニアまで幅広いカテゴリーで競技が行われる、世界ダンススポーツ連盟(WDSF)公認の著名な競技会。優勝ペアから3位までに与えられるメダルの獲得数は、前回2019年大会では1位ロシアの35個、続いて開催国ドイツの14個、そして第3位がモルドバの11個でした。

 しかし、考えてみてください。ドイツ選手の大半が実はロシアや東欧諸国出身者であることを。さらに、ロシアの人口がモルドバの50倍以上であることを考慮すれば、モルドバは「世界最強国」と言えます。

 モルドバの競技ダンスを築いたのは、ペトル・ゴズン(70)、スベトラナ(63)夫妻です。1973年にダンスクラブ「Codreanca(コドリャンカ)」を設立しました。「森の娘」という意味です。

 緻密な理論と選手育成の手腕で知られる夫妻の指導によりモルドバ選手団は国際大会で好成績を収め続け、多数の世界チャンピオンも誕生しました。モルドバ連盟会長も務めるペトルさんが活動全般を統括し、スベトラナさんは技術指導面の責任者を務めます。2人は国内では誰もが知る有名人です。

 さて、私が競技ダンスを始めたのはウクライナに駐在していた2006年、初の単身赴任となり健康維持に不安を感じ始めていた時期でした。その後、08年にルーマニアに転勤後は、夕食会などの仕事がない限り所属クラブで毎晩練習。翌09年以降は国際大会も含めて競技会にも積極的に参加を続けました。ルーマニア離任前の12年12月時点での世界総合ランク648位の成績(スタンダード部門)は、いまもWDSFサイトに残っています。

 そして、モルドバ着任半年後の昨年8月、私はゴズン夫妻を訪ねました。夫妻は私の熱意を受け入れてくれて、同月以降、夫妻が探してくれたパートナーのイリナさんと練習を続けています。

 さてさて、「あなたたちを世界一にしてあげる」と語るスベトラナさんのレッスンは異次元の厳しさです。会話はいつもロシア語ですが、「アトリチナ(素晴らしい)!」と言われることはまれです。しかし、その言葉の向こうにGOCシニアⅣクラス(ペアの合計年齢120歳以上)優勝という世界チャンピオンへの夢が見えてくると信じて、私はモルドバで週3回の練習を続けています。

かたやま・よしひろ
 1957年、広島市佐伯区生まれ。廿日市高校を経て立命館大経済学部卒。80年外務省入省。ルーマニア、米ニューヨーク、ウクライナ、ケニアなどの大使館、総領事館で勤務。外務本省では地球環境問題や海賊対策を含めた海洋問題なども担当した。2020年2月から現職。

(2021年10月24日朝刊セレクト掲載)

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