×

社説・コラム

社説 岸田政権1年 「聞く力」を忘れたのか

 岸田文雄首相が政権の座に就いてあすで1年を迎える。

 就任直後の衆院選で勝利し、今夏の参院選でも大勝した。政権の基盤は安定が見込まれたはずだったのに、共同通信の9月の調査では内閣支持率は40・2%。前月から14ポイント近くも急落して過去最低に落ち込んだ。

 コロナ禍の長期化、ロシアのウクライナ侵攻による世界的な資源不足など、かじ取りが難しい面はある。だが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)や安倍晋三元首相の国葬への対応を誤り、国民の不評を買ったのは明らかだ。

 「検討する」「丁寧に説明」「断行する」など首相の言葉は聞こえは良い。ただ政権運営に謙虚さは感じられず、自らの長所である「聞く力」も発揮できているとは言い難い。このままでは政権崩壊の窮地に陥りかねないと自覚するべきだ。

 首相は旧統一教会との関係を断つため、8月に急きょ内閣改造に踏み切った。自民党は接点のある議員の名前も公表した。にもかかわらず、その後も現職閣僚を含め、次々に新たな接点が発覚している。首相がそれでも処分しないのはなぜなのか。

 「当人が亡くなっており、限界がある」と安倍氏の調査も拒んでいる。これでは本気で教団と関係を断つ意思があるとは思えない。世論調査で党の対応が「十分ではない」という回答が80%を超す現実を、もっと深刻に受け止めなくてはならない。

 国葬を強行したことへの批判も強い。首相は閉会中審査に異例の出席をし、経費も前倒し公表して理解を求めた。

 しかし肝心の国会での説明は従来の繰り返し。強い反対の声を押し切って開催を強行したことで国民の分断を招いた責任は見逃すことはできない。

 1年余り前、自民党総裁選の立候補表明で、首相は「今、政治が信頼できないという切実な声があふれている。信なくば立たず」と訴えた。強権的な安倍、菅両政権とは違う謙虚な姿勢を示したことで、首相の座を手繰り寄せたはずだ。

 だが、これまでの政権と同様に、野党の国会開会要求にも応じていない。巨額の予備費で対応する財政民主主義軽視の手法もそのままだ。謙虚な政権運営とはとても言えない。

 政策も腰が据わっていない感がある。足元の国民生活には深刻な物価高が押し寄せ、今月は食品や雑貨など6千品目以上が値上げされる見通しだ。国民生活を守る緊急対策と抜本対策が欠かせないのに、思い切りも目新しさも感じられない。

 賃上げを企業に促す取り組みは、安倍政権時代からの制度を拡充しただけだ。株式投資に対する非課税枠拡大は、総裁選で首相がうたった金融所得課税とは真逆の政策になる。それをなぜ今、検討するのか。説明が欠かせない。岸田政権の目玉である「新しい資本主義」は、富裕層優遇の政策を見直し、国民への所得再分配を進めるはずではなかったか。

 被爆地である広島県選出の首相としても物足りなさが募る。核兵器禁止条約に背を向けて、締約国会議にオブザーバー参加もしなかった姿勢は残念としか言いようがない。「聞く力」を持っているというのであれば、首相はもっと被爆者の願いにも耳を傾けるべきだ。

(2022年10月3日朝刊掲載)

年別アーカイブ