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社説・コラム

社説 ロシアの4州「併合」宣言 力による支配 言語道断

 国際社会の制止や国内で高まる反戦の声を無視して、どこまで強権を貫くつもりなのか。

 ロシアのプーチン大統領がおととい、ウクライナ東南部の4州の併合を宣言した。2014年のクリミア半島併合に続く力による支配で、言語道断だ。

 米欧の軍事支援を受けたウクライナの反転攻勢に追い詰められての窮余の策だろう。新たな「自国領」が攻撃されれば、核兵器の使用も辞さないと威嚇を強める。危険極まりない。

 ウクライナのゼレンスキー大統領はきのう、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を正式に申請すると表明し、徹底抗戦の構えを見せる。米欧も軍事支援を続け、戦況の激化は必至だ。対話を重視していたドイツやフランスも非難を強め、ロシアの孤立は深まる。これ以上の暴走は自滅につながると、プーチン氏は自覚するべきだ。

 プーチン氏は、4州で強行した住民投票で87~99%の高率で支持されたとして「何百万もの人々の意志だ」と訴えた。住民を恐怖に陥れての投票に正当性があるはずはない。

 併合を宣言した演説では「米国をはじめ西側諸国がロシアの資源を奪おうとしている」などと繰り返した。しかし、そんな身勝手な主張は、いつまでも通用するまい。併合に先立って打ち出した予備役の動員を巡り、国内が大きな混乱に陥っているのは、その証左だろう。

 懸念されるのは、追い込まれたプーチン氏が核兵器のボタンに手をかけることだ。国際社会は結束をさらに強め、全力で阻止しなければならない。

 先進7カ国(G7)外相や、米国と欧州連合(EU)はそれぞれ、住民投票は見せかけだとして併合を認めず、追加制裁に乗り出すという。ただ、手詰まり感は否めない。ロシアの豊富な資源を背景に各国ではエネルギー不足や物価高騰に直面し、「制裁疲れ」も指摘される。

 国連も機能不全に陥っている。併合宣言を認めないよう各国に呼びかける、安全保障理事会の決議案は、ロシアが拒否権を発動して否決された。五つの常任理事国自らが国際法を犯すという、発足当時は想定していなかった事態に、打つ手がない状態だ。

 日本政府はどうか。岸田文雄首相はおととい、ゼレンスキー氏と電話で会談し、来年のG7議長国として国際社会をリードすると述べた。ただ、ロシア依存の強い液化天然ガス(LNG)や、北方領土の問題など、踏み込みにくい事情も抱える。

 ロシア側は、足元を見透かすように日本への揺さぶりを強めている。9月には北方領土で軍事演習を実施し、ロシア人と日本の元島民らが相互に訪問できる枠組み「ビザなし交流」に関する政府間合意を失効させると発表した。直近では、極東ウラジオストク日本総領事館の領事がスパイ活動に及んだとして一時拘束され、国外退去を命じられた。いずれも、対ロ制裁を封じる狙いがあるに違いない。

 一方的とはいえ、戦闘が続く4州をロシアが自国の領土と宣言したことで、ウクライナ危機は深まったと言えよう。何より核兵器使用への警戒を強めながらの国際社会の対応は難しさを増す。連帯の在り方を見直し、事態打開の有効な手だてを導き出さなければならない。

(2022年10月2日朝刊掲載)

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