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求めた平和 中村医師の記録 映画「荒野に希望の灯をともす」 アフガンで奮闘 21年追う

 戦争や干ばつに苦しむアフガニスタンで35年間にわたり人道支援を続け、2019年12月、現地で凶弾に倒れた医師中村哲さん=当時(73)。その生前を記録したドキュメンタリー映画「荒野に希望の灯(ひ)をともす」が7日から、広島市西区の横川シネマで上映される。活動を21年間取材した谷津賢二監督(61)は「平和のために何が必要なのか、中村さんの生き方がそれを教えてくれる」と語る。(木原由維)

 日本で精神科医師だった中村さんは1978年、登山を目的に訪れたパキスタンで、現地の人々から診察を求められた。これをきっかけに84年、アフガニスタン国境近くのペシャワルの病院に赴任。映画は、一人でも多くの命をつなごうとアフガニスタンの無医地区で診療所をつくり、井戸を掘り、独学で灌漑(かんがい)事業に乗り出すなど、奮闘する姿を映し出す。

 谷津監督は98年から25回現地に入り、計450日にわたり滞在。撮影した映像は千時間を超えた。最後に訪れたのは、中村さんが亡くなる約半年前の2019年4~5月。かつて砂漠だった場所に緑の森がよみがえり、登った丘の眼下には歓声をあげて走り回る子どもたちがいた。農作業にいそしむ大人の掛け声、鳥のさえずりも響く。「中村さんが求めた光景はこれだったのか」と感銘を受け、平和を象徴する場面として盛り込んだ。

 「裏切られても裏切り返さない誠実さこそが、人々の心に触れる。それは武力以上に強固な安全を提供し、人々を動かすことができる」。ウクライナをはじめ国際情勢が混乱する今、谷津監督の胸に響く中村さんの言葉だ。自然の大地で人や動物が暮らし、実りが生まれ、何より命を大切にする―。「今の世界を見たら、そんなシンプルなことを言うような気がするんです」

 尾道市のシネマ尾道でも29日から上映する。

(2022年10月1日朝刊掲載)

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