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連載・特集

モルドバ大使からの報告 片山芳宏 <19> NGOは欠かせぬパートナー

きめ細かく難民を支援

 2016年9月10日、当時赴任していたケニアで、首都ナイロビから国連機に乗り、同国の北東部に位置するダダーブ難民キャンプを訪ねました。

 隣国ソマリアが1991年に内戦状態となったことを受けて、多くの人々が身の危険や食糧難などから逃れるため国境を越えてこの地域に流入。これに対応すべく国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が91年10月から翌92年7月にかけてこの地域に難民キャンプを造ったのです。

 訪問当時はダガハレィ(Dagahaley)、ハガデラ(Hagadera)、そしてイフォ(Ifo)の3拠点を中心に約30万人のソマリア難民が暮らす世界最大の難民キャンプとなっていました。

 ここではUNHCRの管理の下でケニア政府や国際機関による各種協力が行われていますが、それと同時に食糧配給、職業訓練、水や衛生面の管理、あるいは教育に関する業務の多くが欧米諸国や日本の非政府組織(NGO)など各国の援助団体によって実施され難民の生活を支えています。

 視察中に私の目に留まったのが「ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)」の名前でした。広島県神石高原町に拠点を置く、海外人道支援などを中心にさまざまな活動を続けるNGOです。96年に大西健丞(けんすけ)氏が設立し、400人以上のスタッフが世界各地で国際協力に汗を流しています。難民世帯のための住環境確保が遅れているここダダーブでは、仮設住宅の建設あるいは地域住民に対する建設技術支援などの活動を行っていました。

 いま、国際協力活動に取り組んでいる日本のNGOは400団体以上あるといわれます。NGOによる支援の特徴は発展途上国の中で現地住民のニーズを踏まえて、きめ細かく人間味のある援助ができること、そして政府や国際機関による支援では手の届きにくい分野や形態での援助の実施が可能なことです。

 例えば19年3月時点、ケニアではPWJと「難民を助ける会」(青少年育成保護事業)「日本国際民間協力会」(診療所改善事業)「HANDS」(幼児栄養改善事業)「ジーエルエム・インスティチュート」(初等教育機会拡大事業)「日本リザルツ」(結核の予防・啓発事業)および「日本紛争予防センター」(若年層支援を通じた平和構築事業)の計7団体が活動を続け、地方の村やスラム地区などさまざまな場所と条件の下で、ケニアの人々の生活向上に貢献していました。

 さて、このようなNGOの活動を政府からの資金提供という形で支援すべく外務省が02年に開始したのが「日本NGO連携無償資金協力」という制度です。20年度にはこれを活用して59のNGOがアジア、アフリカ、中東、中南米などにある35の国や地域で計109件の事業を実施しました。資金面だけではありません。NGOが活動基盤を強化して一層貢献できるよう、外務省は専門性向上や人材育成などの能力向上に役立つ支援をし、NGOとの対話も行っています。

 開発協力の分野でNGOは政府にとっての重要なパートナーです。国民参加による日本の「顔の見える開発協力」推進の代表格と言えます。オールジャパンでの外交を展開する観点からも、開発協力や人道支援などの分野でますますの活躍が期待されています。

かたやま・よしひろ
 1957年、広島市佐伯区生まれ。廿日市高を経て立命館大経済学部卒。80年外務省入省。ルーマニア、米ニューヨーク、ウクライナ、ケニアなどの大使館、総領事館で勤務。外務本省では地球環境問題や海賊対策を含めた海洋問題なども担当した。2020年2月から現職。

(2022年2月27日朝刊セレクト掲載)

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