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連載・特集

モルドバ大使からの報告 片山芳宏 <20> 外交を通じて平和を!

隣国ウクライナへ祈り

 1980年の外務省入省以来、2年間の語学研修を含めた私の海外勤務は30年近くに及びます。東欧、北米、そしてアフリカと地域もさまざまですが、どの国に駐在する場合でも共通するのは、外交官としての仕事には外国語が不可欠ということです。

 ここモルドバで私は、政府関係者との協議や会議でのスピーチなどはモルドバの国語であるルーマニア語で、各国大使ら外交団や国際機関代表者たちとの会合や国際会議は英語で、そして、ロシア語を母語とする一部のモルドバの人々との交流や簡単なあいさつはロシア語でも行います。外国語の習得は決して容易ではありませんが、国際的な舞台での活躍を目指す若い方々には、自分自身の将来に向けて明確なモチベーションを持ち、語学学習は毎日続けることがとても大切と思います。

 さて、外交の現場をご紹介すべく2020年8月から記してきた「モルドバ大使からの報告」も今回が最後となりましたが、いま、世界を揺るがす出来事が隣国で起きています。2月24日のロシア軍侵攻によりウクライナ国内各地が破壊され、罪のない人々の命が失われています。私自身も4年間駐在した古都キエフの美しい街並みも一変、そして、その頃、毎年夏にロシア語学習のためホームステイをしていた、黒海の真珠とも称される魅力あふれる港町オデッサ方面からは毎日多数のウクライナ人が戦渦を逃れるため避難してきています。男性は戦うべく国内に残ることが求められる中、モルドバに逃れてくる人たちのほとんどは女性と子どもです。

 そんなウクライナからの避難民を、この国は温かく迎え入れています。政府は厳しい予算の中で多くの避難施設を提供し、また、多数のモルドバ国民が自らの貧しい生活状況にもかかわらず食料や衣類などの支援物資を供出し、自宅に避難民を受け入れる方々も多いと聞きます。さらに、たくさんのボランティアも温かい食事の準備など献身的な援助活動を続けています。

 日本政府も直ちに行動しています。ウクライナ国内やモルドバを含む周辺諸国に避難した人々を対象とした総額1億ドル(約110億円)の緊急人道支援を決定し、国際機関などとも協力して取り組みを進めています。これに加えて、ウクライナ避難民の日本への受け入れも開始しました。

 広島で生まれ、母親から原爆投下後の様子も聞かされながら育った私が外交官となって42年。いま、ウクライナで続く悲しい現実を伝える報道を目にしながら心を痛め、改めて平和の大切さをかみしめる毎日です。国家や民族間などで生まれる立場の違いは武力ではなく平和的に解決されなくてはなりません。この悲劇が外交の力によって早く幕を閉じること、そして、ウクライナ避難民の方々をこれから国際社会全体でしっかりと支えていけることを祈って、ここモルドバで筆をおくこととします。

かたやま・よしひろ
 1957年、広島市佐伯区生まれ。廿日市高を経て立命館大経済学部卒。80年外務省入省。ルーマニア、米ニューヨーク、ウクライナ、ケニアなどの大使館、総領事館で勤務。外務本省では地球環境問題や海賊対策を含めた海洋問題なども担当した。2020年2月から現職。被爆2世。

(2022年3月27日朝刊セレクト掲載)

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