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社説・コラム

社説 首相の所信表明 岸田カラーなぜ出さぬ

 きのう開会した臨時国会で、岸田文雄首相が所信表明演説に臨んだ。安倍・菅政権とは異なり、国民の声を十分に踏まえた政権運営を期待されて就任し、はや1年。今夏の参院選まで高い数字を保ってきた内閣支持率が急激に下がった局面にある。

 演説は、謙虚さを失っていたとして、自らの政治姿勢をただすことから始めざるを得なかった。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題と、安倍晋三元首相の国葬実施で見えたのは、岸田氏と国民との間に広がった距離である。

 「『厳しい意見を聞く』姿勢にこそ、政治家岸田文雄の原点があるとの初心を改めて肝に銘じる」と言う。ならば目下、国難と位置付けた物価高への対処と、そのために欠かせない経済再生でも、国民の視点に立つ政策が求められよう。その実現こそが信頼回復の近道である。

 国民の分断を招いた国葬について「さまざまな意見を重く受け止め、今後に生かす」と反省した。ただ、なぜ必要で、なぜ世論の反対を押して強行したのか、いまだに分からない。岸田氏は有識者の意見を聴取して問題点を整理する方針で、臨時国会で与野党が検証する。独断で決めた過程をつまびらかにした上で、議論を深めるべきだ。

 旧統一教会問題では「悪質商法や悪質な寄付による被害者の救済に万全を期す」とし、消費者契約に関する法令などの見直しの検討を表明した。重要ではあるが、国民がなお厳しい目を向ける理由は、旧統一教会との接点調査を自己申告で済ませるなど自民党の対応が甘いにもかかわらず、岸田氏が徹底した調査に及び腰だからだ。選挙を通じ関係を深めた安倍氏への調査を避けたのは典型だろう。

 岸田氏は党内基盤が盤石でなく、最大派閥の安倍派に配慮する姿勢が目立つ。政治手法や政策での「負の遺産」に関わるとなれば、なおさら慎重である。演説では、東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件について、ひと言も触れなかった。

 最重要課題の経済政策でも、アベノミクス路線を変えてでも自らの「新しい資本主義」を貫く、との姿勢を感じない。

 演説では、経済のリスク要因をロシアのウクライナ侵攻など国際情勢に求めたが、きっかけに過ぎない。アベノミクスは経済成長をもたらさず、賃金は長年、上がらない。急激な円安は大規模な金融緩和の副作用であり、国民生活は一層、追い込まれた。政治が招いた国難だと、もっと危機感を持つべきだ。

 経済政策のうち物価高・円安への対応は、値上がりを続ける電気料金の負担緩和を「前例のない、思い切った対策」と強調した。制度設計はこれからだが、ガソリン価格を抑える補助金と同じく対症療法にとどまる。しかも出口は見えず、単なるバラマキに陥る恐れがある。

 国民が求めているのは、アベノミクスに代わる岸田氏のビジョンだろう。主張してきた「成長と分配」のフレーズは今回、消えた。とても岸田カラーを出せているとは思えない。

 1強政治とは違うと言いたいのだろうか、誰も排除しないと「包摂社会の実現」も示した。多様性のある社会は望むところだが、言葉だけ躍るようでは困る。臨時国会では国民の疑問にしっかり答えてもらいたい。

(2022年10月4日朝刊掲載)

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