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社説・コラム

『潮流』 「青山クラブ」の未来

■呉支社編集部長 道面雅量

 JR呉駅から東へ約600メートル、壁のえんじ色がしゃれた建築を引き立てる「青山クラブ」(呉市幸町)。市は有効活用を目指し、隣接する桜松(おうしょう)館と共に4年前に国から購入したが、大規模な耐震改修が必要と分かり、棚ざらしが続く。

 その活用が、さらに遠のきそうな雲行きだ。市は先月、近くの市立美術館や入船山記念館を含め、文化・芸術の拠点として「今後の在り方を一体的に検討したい」と表明。開館40年の美術館も建て替えの検討に入る時期という。美術館も含めるとなれば、計画策定だけでも大ごとである。

 2日、幸町一帯で「入船山秋祭り」が開かれた。普段閉鎖されている青山クラブは、中庭を開放。秋空の下、音楽やダンスが軽やかに繰り広げられ、美術家によるワークショップなどもにぎわった。国道の結節点や鉄道の高架に近い立地だが、3階建ての幅広な建物に隔てられた庭は別世界。アニメ映画「この世界の片隅に」で広く知られた、海軍下士官兵集会所だった頃の活気もほうふつとさせた。海上自衛隊呉音楽隊の拠点だった桜松館の内部見学会もあった。

 祭りの主催団体を構成するNPO法人の小野香澄さん(38)は「外から眺めるだけでは単なる廃虚。活用策をみんなで考え、意見を市に届けることが欠かせない」と語った。時間がかかっても「文化ゾーンとしていい案がまとまるなら歓迎したい。子どもたちが文化に親しめる環境で育ったかどうかは、呉の未来を左右する」と力説する。

 このところ相次いだ、広島市の中央図書館移転、広島空港の野外モニュメント縮小移設、広島拘置所の壁画撤去を巡る動きには、端的に言えば文化への敬意が感じられない。呉市の新たな方針は先延ばしの方便なのか、本気の文化振興なのか。心から、後者であってほしい。

(2022年10月4日朝刊掲載)

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