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連載・特集

岸田政権1年 <1> 安倍氏亡き後

黄金の3年 国葬で暗転

 首相就任から1年を迎えた4日夜。朝から北朝鮮のミサイル発射対応に追われた岸田文雄首相は、官邸で報道陣に政権運営の決意を語った。「国民の信頼と共感をいただきながら歴史的事態に立ち向かい、未来を切り開く」。一言一言、かみしめるように。

 「さすがに疲れている」。首相周辺から、そんな声も聞こえる。9月下旬に面会した自民党関係者は官邸サイドから「短時間で終わらせてと頼まれた」と明かす。

 暗転の発端は先の参院選のさなか。安倍晋三元首相が銃撃された事件だった。党内基盤が弱い首相は、安全保障政策などで最大派閥を率いる安倍氏を頼ってきた。7月8日、一報を受け遊説から戻った官邸で「一命を取り留めてほしい」と目を潤ませた。安倍氏死去の6日後、首相経験者では55年ぶりとなる国葬実施を記者会見で打ち出した。

 参院選で国政選挙の連勝を果たし、向こう3年は大型選挙がない「黄金の3年」を手にしたとも評された。長期政権を視野に入れたかに思えた直後の判断が政権の急所となっていく。

国葬・教団接点 逆風招く

大規模買収事件にも直面

 「海外から多くの弔意が寄せられている。国葬がふさわしい」。安倍晋三元首相の死後、岸田文雄首相は迷いなく決断したとされる。しかし信者の多額献金などが問題視される世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と安倍氏の関係が明るみに出ると、政権運営に逆風が吹き始める。多くの自民党議員と教団側の接点も発覚し、国葬への反対は日増しに高まっていった。

「分断を招いた」

 政府・与党のイメージ刷新を狙い、8月10日に内閣改造に打って出た岸田首相。ところが複数の閣僚と教団側との関係が判明し、かえって逆風は強まった。就任半年の春先に60%を超えた内閣支持率は、9月中旬の共同通信社の世論調査で40・2%まで落ちた。

 重苦しい雰囲気が官邸に漂う中、首相は9月27日に国葬を断行する。その夜、首相周辺の一人は閣議決定のみを根拠とした決定過程について「プロセスで分断を招いた点は反省する。これから政府としてどう検証するかが大事」と語った。

 ただ、旧統一教会問題に収束の気配は見えない。山際大志郎経済再生担当相ら政権幹部が教団側と密接に関わっており、開会中の臨時国会で首相が追及の矢面に立たされるのは必至だ。野党は、首相が繰り返し否定する安倍氏と教団側の関係究明も求める構えだ。ある政府高官は「正直、打開策はない」とこぼす。

 安倍氏を巡って首相は、2019年参院選広島選挙区の大規模買収事件でも河井克行、案里夫妻側に提供された巨額資金との関係解明を迫られた。亡き後も、その「負の遺産」に直面する。党内では友人代表として弔辞を読んだ菅義偉前首相の存在感が高まる。首相が衆院を解散しない限り、大型選挙が当面ない状況は変わらないが「岸田降ろし」につながるとの見方もある。

長期政権へ決意

 この難局をどう乗り切るのか。臨時国会を控えた9月30日夜、首相は公邸で会食した地元広島の後援会幹部に改めて長期政権への決意をにじませたという。「地道に政策を進め、国民の理解を得ていきたい」。反発を招いた国葬判断を教訓とし、自負する「聞く力」で厳しい声に向き合ってこそ、その環境は整う。(樋口浩二、口元惇矢)

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 政権発足から1年がたち正念場を迎えた岸田首相。経済政策や新型コロナウイルス対策、「核兵器のない世界」の実現に取り組んだ足跡を追い課題を探った。

(2022年10月5日朝刊掲載)

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