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社説・コラム

社説 北朝鮮ミサイル日本通過 米韓と連携 横暴止めよ

 傍若無人の挑発を何度繰り返すのか。北朝鮮がきのう朝、また弾道ミサイルを発射した。

 あろうことか、青森県付近の上空を通過した。約4600キロも飛び、太平洋に落下したとみられる。北朝鮮のミサイルでは過去最長の飛行距離で、米軍基地のあるグアムまで届く。

 ロシアによるウクライナ侵攻や、台湾を巡る米国と中国の対立に国際社会が振り回されている隙を突き、軍事技術を着実に蓄えている。怒りに加え、空恐ろしささえ感じる。岸田文雄首相は「暴挙であり、強く非難する」と述べた。当然だ。

 北朝鮮は今年、異例の頻度でミサイル発射を重ね、グアムや米本土を射程に入れたミサイル開発に血眼になっている。3月には、大陸間弾道ミサイル(ICBM)をロフテッド軌道と呼ばれる高角度で打ち上げ、高度約6200キロに達し、最も長い時間飛び続けた。通常の軌道で発射すれば、約1万5千キロ以上飛び、米本土に届くという。

 米本土が狙えるミサイルを手にすることで、北朝鮮への敵視政策をやめるよう、米国に迫る戦略を立てているのだろう。

 4年前、米国との首脳会談を初めて実現させ、雪解けムードが漂ったこともある。しかし根本的な対立は解けず、軍備増強路線に逆戻りしてしまった。

 韓国の現状も、北朝鮮を焦りにも似た活発な動きに駆り立てているのかもしれない。今年あった大統領選で、北朝鮮に厳しい政権が誕生した。その流れで先月下旬、米韓による日本海での合同軍事演習が約5年ぶりに実施された。先月末には、日本も含めた3カ国が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に対処するための共同訓練をした。

 近年、足並みの乱れも目立った日米韓が連携することに反発を強めているのではないか。

 今回、ミサイルに日本上空を通過させたのは、北海道上空を越えて約3700キロ飛んだ2017年9月以来である。日米韓の連携をけん制する北朝鮮の狙いの証しだと言えよう。

 気になるのは、7度目の核実験を近く強行するとみられていることだ。重要な共産党大会を控えた中国がにらみを利かせ、北朝鮮を抑えているようだ。

 ただ、今月開幕の党大会が終われば、どうなるだろう。北朝鮮は9月に、核兵器の使用条件などを定めた法令を設けたばかり。体制維持のため核の先制使用ができるとうたっている。ミサイル開発と併せ、なりふり構わず金体制を守る姿勢を表している。危うさを増していると言わざるを得ない。

 協力して対応すべき国連だが、心もとない。安全保障理事会で拒否権を持つ中国とロシアが壁となって、有効な手だてを封じているからだ。両国は近年、北朝鮮を擁護する姿勢を崩さず、厳しい態度の米国や欧州各国との溝が広がっていた。ウクライナ侵攻が加わって、溝はさらに深まっている。

 安保理が機能不全だからといって、北朝鮮の横暴を放置するわけにはいかない。日本の役割は明らかである。まず米国や韓国、オーストラリアといった民主主義国と、危機感を共有する必要がある。その上で、そうした国々との連携を強めて、北朝鮮がこれ以上暴走しないよう、中国やロシアに粘り強く働きかけ続けなければならない。

(2022年10月5日朝刊掲載)

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