×

連載・特集

岸田政権1年 <2> 経済政策

成果見えず かすむ分配

止まらぬ物価高 対策に奔走

 世界経済の中枢を担う米ニューヨーク証券取引所。9月下旬、岸田文雄首相は笑みを浮かべ、得意の英語で講演した。「日本経済は力強く成長を続ける。確信を持って投資をしてほしい」。看板政策「新しい資本主義」も紹介し、米大リーグの大谷翔平選手の「二刀流」に例えて「成長と持続可能性のtwo wayだ」と誇ってみせた。

膨らむリスク

 日本経済の明るさを投資家へ懸命にアピールした首相。足元ではウクライナ危機と円安で物価高が止まらず、景気減速のリスクが膨らむ。昨年秋の就任間もない所信表明演説で「成長も分配も実現する」と宣言して1年。対応を誤れば一気に求心力を失う瀬戸際に立ち「戦後最大級の難局に対峙(たいじ)していく」と物価高対策に奔走する。

 首相はガソリン補助金の年末までの延長や住民税非課税世帯への5万円給付を表明。電気料金の負担緩和などを盛り込んだ総合経済対策を今月中にまとめるよう関係閣僚に指示した。しかし、効果は未知数だ。

 例えば、5万円給付の対象の7割以上は高齢世帯。低所得でも金融資産を持つケースがある。所得が一定にあっても、食費や教育費に余裕がない子育て世帯もいる。報道各社の世論調査では、一連の対策に厳しい評価が相次いだ。

 自民党のベテラン議員は「小手先ではだめ。じり貧の内閣支持率を上げるには賃上げなどの政策を手堅く誠実にやるしかない」と語る。

 今後、経済政策の鍵になるのが物価上昇に見合う賃上げだ。首相は就任以来、「新しい資本主義」の中で所得の再分配と格差是正を強調。賃上げ企業を対象に法人減税を強化した。だが、明確な成果は見えず、分配政策はかすみがちだ。

 春闘では、経団連や連合の集計で、賃上げ率が2%を超えたが、多くは定期昇給。基本給を底上げするベースアップは力強さを欠いた。実質賃金は7月の最新値まで4カ月連続の前年割れ。首相が総裁選で掲げた「令和版所得倍増計画」は家計に貯蓄から投資へと移行を促す「資産所得倍増プラン」に姿を変えた。今月3日の所信表明演説から「分配」の文言は消えた。

 野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「給料の一部を株式投資に振り向けてほしいと求めても、賃金が伸びない中では難しい」と指摘。「労働生産性を高め賃金が上がる見通しを示すことが経済の抵抗力を高めることにつながる」と提言する。

原発回帰鮮明

 首相は経済に直結するエネルギー政策でも方針を転換し「原発回帰」を鮮明にした。それまで東京電力福島第1原発事故を踏まえ、新増設や建て替えは「現時点で想定していない」としてきた。8月の脱炭素会議で、原油や天然ガスの価格高騰などを理由に次世代型原発の開発・建設の検討を指示。原則40年の運転期間の延長も視野に入れる。

 「原発はごめんだヒロシマ市民の会」の木原省治代表は「世論の反発を避けるため、参院選後に計算して出してきたように思える。福島の教訓から得たものを、鶴の一声でひっくり返す手続きは腹立たしい」と批判する。(境信重)

(2022年10月6日朝刊掲載)

年別アーカイブ