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連載・特集

岸田政権1年 <3> 新型コロナ対策

出足上々 今は試行錯誤

メッセージの発信に苦悩

 新型コロナウイルス流行「第7波」の猛威が続いていた8月下旬。官邸の一室で繰り広げられる「囲み取材」の光景が話題になった。新型コロナに感染し、公邸で療養中の岸田文雄首相がモニター越しに質問に答えるリモート形式。夏休み直後の陽性判明だっただけに国民の批判を意識し「真摯(しんし)に受け止めなければならない」と語った。

会食は控えず

 7月の参院選で自民党が勝利した後、首相は第7波の感染の速さを踏まえ、夏休みシーズンを前に最大限の警戒を呼び掛けていた。一方で「会食しないとなれば、それがメッセージとなり、経済活動が鈍くなってしまう」(首相周辺)と、自らは夜の会食を続けた。

 飲食店の営業自粛要請など行動制限も発動せず、有効な手を打てぬまま8月中旬に1日の新規感染者が25万人を突破。医療逼迫(ひっぱく)への備えの遅れを指摘する声が強まり「後手」の批判を受けた。

 昨年10月の就任以来、「感染防止と社会経済活動の両立を実現していくため対応を加速させる」と訴えてきた首相。序盤は悪くなかった。緊急事態宣言の発令と解除を繰り返した菅政権の失敗を教訓に「先手」を強調。感染者数が低めに推移し、厳しい水際対策が好感された時期もあった。現在は医療機関や国民にたまった「コロナ疲れ」を解消し、新たな社会の仕組みを具体化させるための試行錯誤が続いている。

 発熱外来や保健所の負担を軽くするため、感染者の全数把握の方法を見直す方針を8月下旬に表明。発生の届け出を、都道府県の判断で高齢者ら重症化リスクの高い人に限定できるようにした。しかし、判断を委ねたことで「丸投げ」との批判と混乱を招く。

 中国地方の各県からは「感染拡大を招きかねず、リスクをはらんでいる」(島根県の丸山達也知事)、「事務負担の軽減だけを見ていてはいけない。患者が増えれば結局、現場負担が増す」(広島県の担当者)などと懸念が噴出。結局、全国一律とする方針に修正を余儀なくされた。

浮沈の鍵握る

 対策の軸足は感染拡大防止の「守り」から、社会経済をコロナ前に近づける「攻め」に移りつつある。一方でメッセージの発信に苦悩する首相の姿も浮かぶ。今月3日、衆院本会議での所信表明演説。屋外ではマスクを外すよう促したが「近くで会話をしない限り」と条件付きの表現にとどめた。首相周辺は「もっと踏み込みたかったが、インフルエンザが大流行しかねないと専門家が首を縦に振らなかった」と明かす。

 今後の焦点は第8波や、インフルエンザとの同時流行への備えだ。首相は所信表明演説で、オミクロン株に対応した新型ワクチン接種の加速や保健医療体制の構築に力を入れると表明した。新たな司令塔組織の立ち上げ、後遺症患者の診療相談体制、感染症法上の分類見直しなどの課題も残る。就任時から掲げる「先手」を体現できるかが政権浮沈の鍵になる。(山本庸平)

(2022年10月7日朝刊掲載)

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