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連載・特集

岸田政権1年 <5> 核兵器と安全保障

廃絶 問われる有言実行

禁止条約に背 防衛は強化

 臨時国会が幕を開けた3日の本会議場。所信表明演説に臨んだ岸田文雄首相は核兵器のない世界に向け、「現実的な歩みを進める」と訴えた。就任来、被爆地広島選出を重ねてアピールする首相。国会召集日に自らのライフワークを語る光景は恒例となりつつある。

並々ならぬ決意

 歴代首相と比べると、国内外に核軍縮を呼びかける姿勢は際立つ。9月、米ニューヨークの国連総会では核なき世界の実現に「並々ならぬ決意」があると切り出し「長崎を最後の被爆地に」と訴えた。日本の首相で初めて出席した8月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議でも、核戦力の透明性向上など5項目の行動計画「ヒロシマ・アクション・プラン」を提唱した。

 ただ、核を巡る情勢は急激に悪化している。ウクライナを侵攻するロシアのプーチン大統領は9月下旬、強制編入したウクライナ東部4州の「自国領」が攻撃されれば、核兵器の使用も辞さないと表明した。核なき世界どころか、核使用の危機が現実味を帯びる。

 世界最多6千発余りの核兵器を持つロシア。岸田首相は国連総会の演説で5度にわたって名指しで批判するなど、対ロシアの強硬姿勢を貫く。他方で、被爆の惨禍を知る国としてロシアとどう向き合い、核使用を防ぐのかは示さぬままだ。

 ロシアの核威嚇を受け、核兵器の保有や製造を禁じる核兵器禁止条約への賛同は一層広がり、署名国は91カ国・地域に増えた。首相は「核の傘」に頼る米国への配慮から、この条約にも背を向け続ける。被爆者たちの憤りは強まる一方だ。

被爆者と温度差

 4日、日本被団協が東京都内で開いた全国都道府県代表者会議。参加者から、被爆国トップに今求められるのは「廃絶の先頭に立ち、世界をリードすることだ」との声が上がり、拍手が起きた。会議は政府に改めて禁止条約への参加を求めると決議し、首相との温度差が浮き彫りになった。

 核廃絶を巡る歯切れの悪い物言いとは裏腹に、首相は防衛政策に関しては強化の考えを鮮明にする。就任来、日米同盟の重要性を重ねて強調。通常戦力に核戦力を加えた「拡大抑止」を強めるとする。年内に改定する「国家安全保障戦略」など安全保障関連3文書にも明記する方向だ。

 来年5月には先進7カ国首脳会議(G7サミット)の議長として米国、英国、フランスの核保有3カ国の首脳を被爆地広島に迎える。先立って、ことし12月には、世界の政治指導者らを招く「国際賢人会議」も広島で主催する。核抑止の強化を掲げながら核なき世界への「機運」を高めると繰り返す。

 「核が使われかねない今、核兵器を具体的になくす努力をするのが被爆国のリーダーの責任だ」。3歳の時、牛田町(現広島市東区)で被爆した日本被団協の家島昌志代表理事(80)=東京都=は首相に求める。

 国連総会の演説で、核なき世界に向け「被爆者の思い」を胸に刻むと誓った首相。有言実行を果たさぬ限り、被爆者には「歴代政権と本質は同じ」との失望が広がる。(樋口浩二) =おわり

(2022年10月10日朝刊掲載)

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