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社説・コラム

天風録 『ノーベル平和賞』

 人生七十古来稀(まれ)なり。杜甫は詩にそう詠んだが今や70歳は珍しくなく、まだ若いうちだろう。それでも古希には高貴とされる紫色にちなむものを贈って祝う風習がある。一方、東欧などで古希のプレゼントと言えば農業にまつわる物なのか▲7日はロシアのプーチン大統領の誕生日だった。隣国ベラルーシのルカシェンコ大統領からトラクターが贈られた。同国の代表的な工業製品である。タジキスタンからはメロンやスイカといった農産品が山ほど届いた▲さぞかしご満悦だったろう。しかし同じ日、長く弾圧してきたロシアの人権団体にノーベル平和賞授与が決まった。ロシアの戦争犯罪を記録するウクライナの人権団体、ベラルーシの人権活動家にも。プーチン氏とルカシェンコ氏による人権侵害が「認められた」格好だ▲大統領には苦々しい贈り物だろう。だがそれだけの行状を働いた報いだ。政治弾圧を記録して人権擁護を続ける団体メモリアルを解散に追い込む。侵攻したウクライナでは民間人多数を殺害。現地の団体に告発された▲核兵器の使用までほのめかして、孤立を深める「現代でも稀な」暴君ぶりである。一日も早く退陣するよう、引導を渡したい。

(2022年10月9日朝刊掲載)

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