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連載・特集

岸田政権1年 <4> 地方政策

活性化へデジタル前面

知事会など軌道修正訴え

 9月末、官邸の会議室。有識者や自治体の首長に向け、地方活性化の思いを語る岸田文雄首相の姿があった。「デジタルの力を活用し、自治体の枠組みを超えた地域間の連携を推進する」。結びに一層力を込めた。「全国どこでも、誰もが便利で快適に暮らせる社会を実現できるよう、しっかりと取り組む」

 首相が有識者会議で説明したのは「デジタル田園都市国家構想」。デジタル技術を活用して遠隔医療やスマート農業、自動運転などを地方に普及させ、都市部との格差を是正する看板政策だ。自民党宏池会の先輩、大平正芳元首相の「田園都市構想」に着想を得たとされる。12月の総合戦略の策定に向け、首相は9回の会合を重ねてきた。

 1年前。首相は就任間もない所信表明演説で「地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こす」と強い決意を語っていた。その後、第5世代(5G)移動通信システム網を全国に整備する方針を表明。2026年度末までにデジタル人材を230万人育てる目標も打ち出した。

現実味問う声

 だが、首相の構想を現実味を持って理解する地域ばかりではなさそうだ。広島市安佐北区の山あいにある狩留家町の集落。ナスの特産化で地域おこしを目指すNPO法人の黒川章男(のりお)理事長(81)は「デジタル化で、どう人口減少を食い止めるのかイメージが湧かない」。NPOを設立した10年前から、人口は15%減って約1160人。数年後には千人を割り込みかねない。

 実は、デジタル技術による地方活性化は目新しい政策ではない。安倍、菅政権もデジタル化を地方創生戦略の軸に据え、地方への移住や企業の移転を後押しした。しかし、人口減少に歯止めはかからず、過疎地域に指定された自治体は今春、初めて全国の市町村の5割を超えた。

 岸田政権が進めるデジタル中心の地方政策に対し、自治体の間には軌道修正を求める声も出てきた。

 「これまで進めてきた地方創生の取り組みが無駄にならないよう、デジタルのみにとらわれない包括的な支援をしてほしい」。全国知事会は8月、東京一極集中を是正するため、子育てしやすい環境の整備や企業の地方移転の促進など、従来の施策が後退しないよう政府に要望した。「国の政策転換で、地方が積み上げた努力を損ねてはならない」とくぎを刺した。

「目的でない」

 「デジタルは手段であって目的ではない」と指摘するのは、第2次安倍政権で地方創生担当相を務めた石破茂氏だ。「デジタル化によって、地域の産業が5年後、10年後にどうなるのか、そこに至る手段は何なのかというビジョンを示す必要がある」と語る。

 金沢大の林直樹准教授(農村計画学)は「基本的にデジタルは人を補佐するものだ。人が減少した地域では効果は限定的になる」と強調。「人口が減る地方の生き残り戦略を打ち立て、デジタル技術をどう生かすのかという議論が不可欠だ」と訴える。(中川雅晴)

(2022年10月9日朝刊掲載)

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