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社説・コラム

社説 人権活動に平和賞 露の蛮行を止める力に

 ロシアのウクライナ侵攻を糾弾する強いメッセージが伝わってきた。

 ことしのノーベル平和賞は、戦争犯罪や人権侵害、権力乱用の記録に取り組んできたウクライナ、ロシア両国の2人権団体と、ベラルーシの人権活動家に授与されることになった。

 ロシアのプーチン政権と、同盟関係にあるベラルーシのルカシェンコ政権の暴虐ぶりを告発する草の根の活動への支持を鮮明に表した。一人一人の命をないがしろにする政治体制を否定し、揺るぎない市民社会をつくることが平和への道であると、私たちもあらためて認識すべきだろう。ロシアの蛮行を止める力にしたい。

 ウクライナの「市民自由センター(CCL)」は、ことし2月のロシア軍の侵攻を受けて、多数の民間人殺害が指摘された首都キーウ(キエフ)近郊のブチャやイルピンなどで証言を収集。虐殺の現場の実情を記録してきたという。

 ロシアの「メモリアル」は、独裁者スターリンによる迫害を受けた人々の名誉回復の取り組みで国際的に注目された。しかしプーチン政権下でスパイ扱いされ、ロシア最高裁の命令で今春、解散に追い込まれた。

 ベラルーシのアレシ・ビャリャツキ氏は人権団体「ビャスナ(春)」を設立。独裁的なルカシェンコ政権を批判し、抗議デモの広がりを生んだが、大規模なデモを率いたとして今も拘束されている。

 いずれも、強権に虐げられた市民に寄り添い、権力者の責任を追及しようとする、粘り強い取り組みだ。ノルウェーのノーベル賞委員会は「長年にわたり権力を批判し、市民の基本的権利を保護してきた」「平和と民主主義に対する市民社会の重要性を実証した」とたたえた。地道な人権活動こそが強権政治を打倒し、ウクライナ侵攻の出口を見いだすことにつながる。

 事実を自らに都合よくねじ曲げ、偽りの正義を主張するのは独裁者の常とう手段である。ウクライナ東南部の4州で脅しによる見せかけの住民投票を強行し、支持を得たとして、一方的に「併合」を宣言したプーチン氏の振る舞いは、その典型だ。

 だからこそ、戦火や圧政の下で覆い隠された真実を刻む市民社会の取り組みは重要である。弾圧されようとも、今回の受賞のように必ず光は当たり、決してかき消されることはない。

 平和賞候補とされてきた日本被団協の活動も、それに通じるものだ。プーチン氏が核兵器の使用も辞さないとの言動を繰り返す中、被爆地の訴えを強めることは、愚行を食い止める力になるはずだ。

 ウクライナ侵攻が始まり、7カ月半。長引く戦況に加え、プーチン氏が予備役の動員に踏み切ったことで、ロシア国内の反戦世論は高まっている。民主主義、人権、法の支配を保障する仕組みづくりを進める団体や活動家の受賞は、厭戦(えんせん)ムードをさらに促すことになるだろう。ロシアとベラルーシは授与決定を「政治的だ」と批判するが、孤立が深まるのは明らかだ。

 人権や民主主義の抑圧は、両国にとどまらない。独裁体制に屈することなく声を上げ続ける市民社会の力を平和の構築に生かしていくことが、国際社会に求められている。

(2022年10月9日朝刊掲載)

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