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社説・コラム

社説 ウクライナ全土攻撃 核使用 どう食い止める

 ロシアのウクライナ侵攻から7カ月半、情勢が一気に緊迫化してきたことを強く憂う。

 ロシア軍は、首都キーウ中心部を含むウクライナ全土をミサイルで一斉に攻撃した。侵攻開始後、最大規模の攻撃である。その2日前には、ロシアが一方的に併合したクリミア半島との間を結ぶクリミア橋が爆破されている。それに対する報復として軍事施設やエネルギー関連施設などを爆撃した、とロシア側は説明している。

 だがキーウでは商業施設や公園にも着弾し、全土で少なくとも20人が死亡した。民間人を巻き込む無差別爆撃の疑いは拭えない。国連総会の緊急特別会合で非難が相次いだのも当然だ。

 先月来、ロシアの振る舞いは理解に苦しむ。予備役の部分動員令、東部・南部4州の「併合宣言」、ザポロジエ原発の「国有化」といった異常な行動の背景にあるのは、ウクライナ軍の抵抗で軍事作戦が劣勢に転じたことへの強い焦りだろう。

 加えて黒海艦隊への補給路であり、プーチン氏が建設を主導したクリミア橋が、恐らくはウクライナ側の手で破壊された。メンツをつぶされた大統領が、自国内へのアピールもあって全土攻撃に出たとみていい。

 この全土攻撃には、両国の橋渡しを自認するトルコもさすがに非難に回った。またロシア国内でも「兵役逃れ」の国外脱出に象徴されるように不満が渦巻いている。プーチン氏は現実を受け止め、すぐに無条件の停戦を表明すべきだ。少なくともこれ以上、非人道的な攻撃をエスカレートさせてはならない。

 何より懸念されるのは侵攻開始直後からプーチン氏が示唆していた核兵器の使用が、次第に現実味を帯びてきたことだ。

 茶番とも言える住民投票を経た「4州併合」の動きの中で、プーチン氏はこんな論法で核の使用をちらつかせた。4州は自国領であり、ウクライナが奪還しようとすれば「あらゆる手段を講じる」と。ロシアの強硬派には占領地一帯で戦況挽回のため戦術核、あるいは小型核を使え、との声もあるという。言語道断の発想というほかない。

 先週、米国のバイデン大統領は「このままではキューバ危機(1962年)以来、初めて核の脅威に直面する」と述べた。現時点ではロシアが核を使用すれば米国が直接介入するという警告であり、本当に使われるという見方は米国でも強くないようだ。米核戦力の反撃を恐れてそこまで踏み切れまい、と。

 そうした論理もまた、被爆地からすれば強い違和感がある。核の脅威を核で封じる「核抑止論」が、ウクライナ情勢が悪化する中で公然と語られていく現状はやはり残念である。

 ひとたび核が使われると何が起きるか。広島と長崎の惨禍に今こそ学ぶべきだ。戦術核について考えればロシアは約2千発保有し、その威力は限定的と説明される。しかし場合によっては広島原爆に匹敵する破壊力を持つことを忘れていないか。

 「戦争被爆国の責務」という言葉を事あるごとに口にしている岸田文雄首相はこれまでロシアを繰り返し批判しつつ、核使用をどう防ぐかの手だては示していない。核兵器を含む大量破壊兵器の使用の断念を、プーチン氏に直接働きかける。そんな気構えはないのだろうか。

(2022年10月12日朝刊掲載)

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