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連載・特集

[2023広島サミット] 2016年開催地 広島商議所が視察 伊勢志摩の知恵 ヒントに

 広島商工会議所が9月、来年5月19~21日に広島市で開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)の開催に向けて、2016年に伊勢志摩サミットのあった三重県志摩市と伊勢市を視察した。行政、経済界の関係者との意見交換で浮かんだキーワードは「心のこもったおもてなし」「戦略的な情報発信」「事前の準備」だった。同行取材で得た伊勢志摩からの提言を報告する。(榎本直樹)

おもてなし

官民で美化 警備にも感謝

 サミット主会場の志摩市でおもてなしに取り組んだのは、官民44団体で結成した「伊勢志摩サミット市民会議」だった。住民参加で道路沿いの掃除をしたり、公共施設を花で飾ったりした。開催1カ月半前には、駅の案内所に英語対応ができるスタッフを置いた。

 サミットでは、宿泊予約センターを通した関係者の宿泊は1日最大約2万人に上った。参加国の関係者に加え、全国から警察官たちが集まった。橋爪政吉市長は、市役所を訪れた広島商議所の池田晃治会頭たちに「警備は厳しく、市民生活に不自由が出る可能性もある。丁寧に説明し、歓迎ムードをどう醸成するかが重要だ」と助言した。

 サミット後は、市民グループが三重県を離れる警察車両に「ありがとうございました」と書いたボードを掲げて見送り、地元の小学生は広島県警など他県の警察へお礼の手紙を書いた。「警察官の中には、サミット後に三重へ旅行に来た人もかなりいた」と橋爪市長。地域ぐるみでのおもてなしが、サミット後の経済効果につながると説いた。

情報発信

会食の食材は入手困難に

 サミットにはメディア関係者も訪れる。伊勢市に設置された国際メディアセンターは約5千人が利用。伊勢商工会議所は外国人の来訪に備え、英語で接客できることを示すステッカーを62事業所に配った。

 広島商議所との懇談会で、伊勢商議所の浜田典保副会頭は「外国人観光客への情報発信の格好の機会と手ぐすね引いて待った」と振り返った。メディアセンターには三重県内の名所や特産品を紹介するコーナーができた。主会場となった志摩市の賢島にあるサミット記念館「サミエール」は今も、各国首脳に贈られた特産品を展示している。

 サミットの会食で振る舞われた食材は特に注目が集まる。当時、三重県職員として地元食材のリスト化に関わった伊勢商議所の水島徹専務理事は「日本酒など、すぐに増産できない食材はメニュー公表後に入手困難になる」と指摘した。

 志摩市では、取材のピークはサミット開催の1、2カ月前にもあったという。情報発信のタイミングもサミット後の経済効果に影響することになる。

事前準備

交通規制 物流・観光に影響

 サミットの準備の一つに警備など関係者向けの弁当がある。伊勢志摩サミットではコンビニを代表とする共同事業体が対応したが、一部は志摩市商工会が中心となって2週間余りで約1万8千食を供給した。

 「食中毒が出ると警備に支障が出る。生ものを含む郷土料理は使えなかった」と竹内厚史事務局長。想定外もあった。16年4月に熊本地震が発生し、さらにサミット後には当時のオバマ米大統領が広島市を訪問することになった。警備関係者が熊本県や広島市に向かい、生産量に大きな変動が出たという。

 サミット中は交通規制で物流にも支障が出た。三重県内でスーパーを展開する会社の社長で、伊勢商議所の清水秀隆副会頭は取材に「物流ルートを変えた。計画通りに配送できなかったが、何とか営業できた。警備関係者に配られる弁当だけでは足りないのか、店舗の弁当や総菜もよく売れた」と明かした。

 一方で観光客の宿泊は制限され、伊勢神宮周辺の土産物店は打撃を受けたという。広島サミットでも短期的な需要の増減に備える必要がある。

当時の伊勢商議所会頭 上島憲顧問に聞く

 伊勢志摩サミットの際、伊勢商議所の会頭だった上島憲顧問が、広島商議所の視察団に当時の取り組みを語った。

楽しい話題づくり 次々

サミット後も仕込みあれば

 伊勢神宮のある伊勢市は待っていたら客が来るような地域。国際化のまたとないチャンスと捉え、とにかく楽しい話題作りを次々に企画した。

 伊勢うどんに三重県産の具を七つ入れた「G7サミット伊勢うどん」を市内7店で提供した。伊勢のよさを地元の人は意外と分かっていないと思い、マンリオ・カデロ駐日サンマリノ大使の講演会を開いた。外から見た「日本の聖地」をテーマに語ってもらい、地域の価値を見詰め直す機会になった。

 サミット後も盛り上がりが続くような2段、3段の仕込みがあればよかった。これまでにサミットがあった都市の商議所が集まってサミットを開いてもいい。

伊勢志摩サミット
 2016年5月26、27日、三重県志摩市賢島を主会場に開かれた。県は道路などの建設やイベントPRなど直接的な経済効果だけでも県内で483億円と独自に試算。15年8月から16年7月まで、サミット関係者の宿泊を取り扱う宿泊予約センターを設置し、期間中に延べ約38万3千人分の利用があった。

(2022年10月14日朝刊掲載)

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