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社説・コラム

社説 安保3文書改定 決め方 これでいいのか

 場合によっては将来、歴史の教科書に載るほどの重要な転換点となるかもしれない。岸田政権が「安保関連3文書」と呼ばれる防衛政策のよりどころを改定する作業を本格化させた。

 見直すのは、安倍政権が2013年に初めて策定した国家安全保障戦略、1976年以来、5度にわたって改定した防衛計画の大綱、そして5年ごとに防衛予算の使い道を定める中期防衛力整備計画(中期防)である。

 政府の意図は明らかだろう。長く目安にした国内総生産(GDP)比1%という枠を大幅に突破して「防衛力の抜本的な強化」を図ること。その中で「反撃能力」と称する敵基地攻撃能力を容認することだ。

 先月末に有識者会議の初会合を開いたのに続き、あすから自民、公明両党の与党協議が始まる。12月に3文書改定を終え、来年度政府予算案とリンクさせて決着を図る―。それが岸田政権のシナリオである。

 あまりに拙速ではないか。防衛政策は国家百年の計であり、本来なら慎重かつ十分な議論が求められる。あと2カ月で、どこまで踏み込んだ議論ができるのか。また臨時国会中なのに野党側に十分な説明もない。

 そもそも「抜本的な強化」の中身が一向に見えないのに、5年間で現行の1・5倍の40兆円以上という次期中期防の数字が公然と語られ始めている。国民の見えないところで検討を着々と進め、政権に近い有識者や与党の限られたメンバーのお墨付きを得ればそれでいい、という「結論ありき」の決め方では、禍根を残しはしないか。

 むろん、防衛力の在り方を見つめ直すことは避けられまい。ロシアのウクライナ侵攻で世界情勢は一変した。台湾海峡を巡る軍事的な脅威として中国の動向も懸念される。今月4日には北朝鮮の弾道ミサイルが日本列島の上空を通過し、目に見える形で安全は脅かされた。

 しかし、ここは目先の雰囲気に流されず、冷静に考えたい。「反撃能力」にしても相手のどんな行動に対していつ発動するかや、反撃の対象と範囲については生煮えだ。このままなら、例えば相手の射程外から発射できるスタンド・オフ・ミサイル導入だけが予算化され、運用はあいまいとなる恐れもある。つまり、なし崩し的に国是である専守防衛を逸脱しかねない。

 もう一つ、3文書改定で焦点となるのが防衛力強化の財源だろう。岸田文雄首相は「財源の確保を一体的に進める」と強調したが、自民党が口にするGDP比2%以上の達成には年に5兆円を超す財源が要る。

 政府内では当面の財源を確保しておく「つなぎ国債」案や、東日本大震災への復興支援などで行った法人税の増税論も浮上しているという。発足した有識者会議にも一定の提言を期待しているようだ。

 ただ安易な借金で防衛力をやみくもに増強するのは論外というほかない。新たな税負担を求めるのも簡単な話ではない。自民党税制調査会も来年度の税制改正へ議論を始めたが、この問題では難航は必至だろう。

 何より求められるのは国会や国民に「ガラス張り」の姿勢を示すことだ。きょう衆院予算委員会が始まる。首相は防衛力の何をどう強化したいのか、より具体的に明らかにすべきだ。

(2022年10月17日朝刊掲載)

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