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昨年急逝 被爆者・岡田恵美子さん 元新聞記者、生涯たどる本出版

 国内外で核兵器の廃絶を訴えながら昨年4月に84歳で急逝した広島の被爆者、岡田恵美子さんの生涯を追った「『個』のひろしま 被爆者 岡田恵美子の生涯」をフリーランス記者の宮崎園子さん(45)=広島市中区=が出版した。共に故人と親交が深かった人たちの協力を得て書き上げた。

 岡田さんは8歳の時に爆心地から約2・8キロの自宅で被爆し、姉美重子さん=当時(12)=を原爆で亡くした。多くの市民と手を取り合い、平和の大切さを力の限り伝えた足跡を生前の言葉を交えてつづる。

 宮崎さんは元朝日新聞記者。本の出版へと踏み出したきっかけは、岡田さんが残した段ボール20箱に及ぶ写真や手書きメモ、海外の政治家に送った手紙の下書きなどの資料の存在だったという。

 遺族からNPO法人ANT―Hiroshima(同)に託され、国立広島原爆死没者追悼平和祈念館の叶真幹(まさき)元館長が分類作業をしている。岡田さんの活動の原点や苦悩、次世代継承への思い―。宮崎さんも一緒に目を通す中で、生前の知られざる一面に触れた。「1945年のあの日の体験だけではない。被爆者としてどう生き抜いたのかを、ひもときたい」

 さらに、元中国新聞記者の守田葉子さん(39)=同=が岡田さんから聞き取っていた肉声のメモ起こしが決め手となった。「一人の女性として生きた歩みをたどろう」と個人的に数十時間の取材をしていたが、出産などの事情が重なり、日の目を見ないままだった。宮崎さんが出版を提案し、関係者への取材や膨大な資料の読み込みを重ねながら一冊にまとめた。

 「壁にぶつかっても立ち上がった意志の強さに励まされた。本人の言葉を世に出すことができほっとした」と守田さん。宮崎さんは「原爆被害を自分ごととして捉えるよう若者たちに訴え続けた岡田さんのメッセージを、末永く読み継いでほしい」と語る。西日本出版社刊。1650円。(湯浅梨奈)

(2022年10月17日朝刊掲載)

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