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細田民樹 郷土愛と作品 広島の中央図書館で企画展 代表作「或兵卒の記録」資料も

 戦後、広島の文化復興に尽力したプロレタリア作家細田民樹(1892~1972年)の企画展が広島市中区の中央図書館で開かれている。「故郷につながる作品」をテーマに、代表作「或(ある)兵卒の記録」(1924年)の関連資料など22点を展示している。

 東京で生まれた細田は6歳の時に父親の故郷、広島県壬生村(現北広島町)へ移り住んだ。県立広島中(現国泰寺高)を経て早稲田大進学で上京したが、騎兵第五連隊入隊や疎開に伴い戦前戦後の一時期を広島で過ごした。原爆投下後のきのこ雲も壬生で見ている。30年刊行の「真理の春」がベストセラーになった。今年は生誕130年、没後50年に当たる。

 企画展では、実体験に基づいて軍隊を内側から描いた「或兵卒の記録」や、児童文芸雑誌「赤い鳥」に掲載された童話「相思鳥と鶏」などの自筆原稿(複製)、コラム「原爆の落ちた日」が載った雑誌「文芸春秋」(54年10月号)を並べる。

 細田は終戦後、占領軍の言論統制下にあった広島で原爆詩人栗原貞子(13~2005年)とともに文化活動に励んだ。企画展には栗原の回想録も展示。爆風で散乱した栗原の自宅で「こんなひどい無謀な戦争を起したのも、国民に自由な文化がなかったからだ。抵抗がなかったからだ」と細田と語り合ったと記す。

 石田浩子学芸員は「文学の力を信じ、人間の機微を描いた細田作品から、郷土愛も感じてほしい」と話している。来月6日まで。月曜休館。無料。(桑島美帆)

(2022年10月15日朝刊掲載)

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