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連載・特集

8213都市 廃絶の機運へ連帯 平和首長会議 設立40年 あすから広島で総会

「核の脅し」伴うウクライナ侵攻 問われる真価

 平和首長会議(会長・松井一実広島市長)はことし、設立40年を迎えた。国を超えた都市の連帯で「核兵器のない世界」を目指すという理念の下、加盟都市は166カ国・地域の8213都市(10月1日時点)に上る。ただ、ウクライナに侵攻し「核の脅し」を繰り返すロシアの暴挙を止める手だては見いだせていない。広島市では9年ぶりとなる19、20日の総会を前に、現状を踏まえ、今後の針路を展望する。(小林可奈、和多正憲)

 平和首長会議には、ロシアから首都モスクワをはじめ、67都市が加盟している。被爆樹木2世の苗木の植樹や原爆展の開催に世界共通で取り組む中、副会長都市(14都市)の一つのボルゴグラード市は例年、米軍により広島に原爆が投下された8月6日に追悼式典を開いてきた。首長会議事務局の広島平和文化センターによると、ウクライナ侵攻が続くことしは「開催の報告がない」という。

 首長会議は8千を超す都市へ拡大する過程で、核兵器保有国や、核抑止力に頼る非保有国でも同志を広げてきた。ロシアとともに保有五大国と呼ばれる米国は222都市、フランスは169都市、英国は86都市、中国は7都市が加盟。副会長都市のフランス・マラコフ市は自国政府に核兵器禁止条約の批准を求める署名活動を展開している。

 来年5月に広島市である先進7カ国首脳会議(G7サミット)の参加国では、ドイツが海外各国で2番目に多い840都市を抱える。副会長都市のハノーバー市はウクライナ侵攻が始まった2月下旬に平和を願って首長会議の旗を市庁舎に掲揚。市長が交流サイト(SNS)で発信するなどしたところ、賛同都市に取り組みが広がり、加盟も増えた。

 首長会議は2021年7月、新指針「PXビジョン」を決定。暴力を否定する「平和文化の振興」を柱に据え、市民社会での平和を希求する機運づくりに重点を置く。都市と市民の連携を、どう核兵器廃絶と平和の実現につなげるか。ウクライナ侵攻で真価が問われている。

広島市・松井一実市長

会長都市

あらゆる暴力否定 為政者に促す

 2011年の広島市長就任時から平和首長会議の会長を務める松井一実市長に、首長会議が果たすべき役割や今後の課題を聞いた。

  ―今まさに起きているウクライナ侵攻に対し、平和首長会議はどのような役割を果たせますか。
 都市は国家と違って威嚇力を伴う兵器を持っておらず、世論形成というソフトタッチになる。ウクライナ侵攻ではドイツ・ハノーバー市が庁舎に平和首長会議の旗を掲げ、ロシアとウクライナに「この思いを受け止めてください」と呼びかけた。これで欧州を中心に加盟都市が一気に140ほど増えた。地域特性に合わせ、早期終戦や復興支援へ何ができるか、各都市が主体的に考えて行動するようお願いしたい。

  ―40年間の歩みで、成果や課題は何でしょうか。
 「核兵器を使って都市を破壊し、市民を殺すことはあってはならない」という国際世論をつくり上げるのを使命とし、8千を超す都市が加盟した。直近の成果では17年の核兵器禁止条約の採択がある。核兵器保有国も入れて議論できるよう、条文に発展性を持たせる働きかけをした。世界のほとんどの国が条約を批准し、核兵器の禁止を望む状況をつくるのが当面の課題だ。

  ―一方で保有国が禁止条約を批准せず、8月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議も決裂しました。こうした現状を都市の連帯で打開できますか。
 国家の為政者に対し、その立ち位置を強制できないのが悔しい。だが、その視点を提示するのは、われわれ都市の首長の使命だ。一過性の利益追求でなく、国家が長く続く安定を考えれば、あらゆる暴力を否定する「平和文化」を大事にすべきだ。それに根差した政策展開を考えるように言い続ける。時間はかかるが、これが一番ボディーブローのように効く。

  ―来年5月に先進7カ国首脳会議(G7サミット)が広島市であります。この機会をどう生かしますか。
 次世代を担う若い人に参画してもらう機会ができないかと考えている。為政者の活動を間近に見て「自分たちに何ができるか」を考える動機付けを支援したい。具体的に活動するためのシステムを発案できないかと思っている。

英国マンチェスター市・エディー・ニューマン元市長

副会長都市

都市の活動 国家の壁破る力ある

 平和首長会議の副会長都市を務める英国マンチェスター市のエディー・ニューマン元市長が、総会を前に中国新聞のオンライン取材に応じた。現在は市議として、市議会の平和首長会議常任代表を務めており、核兵器保有国の都市の立場から廃絶を訴える重要性を説く。

  ―マンチェスター市は核兵器廃絶や平和へどのような活動をしていますか。
 保有国の英国で1980年に「非核地帯」を宣言し、核兵器反対の姿勢を明確にしてきた。すぐに他の自治体にも広がり、その後に英国で非核自治体協議会を結成した。子どもや若者の平和教育に取り組み、政府へは核兵器禁止条約への参加を求めている。ロシアのウクライナ侵攻を非難し、市の建物をウクライナの国旗の色でライトアップした。

  ―85年には平和首長会議に加盟しています。設立40年をどう受け止めますか。
 広島と長崎が平和首長会議を率いることはとてもふさわしい。市民が核攻撃の犠牲となり、苦しんできたのだから。ロシアをはじめ保有国は「核戦争に勝者はいない」と言う一方、依然として軍縮を進めていない。だからこそ何百万もの人々を代表する私たちが協力し「核兵器のない世界」を求めるのは重要だ。

  ―都市の連帯の意義は。
 核兵器の攻撃対象になるのは都市だ。長崎に原爆が投下されてから都市への核攻撃はないが、惨状が繰り返されない保証はない。核兵器がある限り、市民への脅威は存在し続ける。地方自治体には自国の核兵器を放棄する権限はないが、都市が連帯し、核兵器反対を訴えれば、政府に影響を及ぼす力になる。

  ―一方で国家間の核軍縮交渉は難航しています。
 核兵器を持つ英国でも、議員や市長を含む多くの人々が核軍縮に賛同し、他の国の都市でも同じような動きが起きている。都市の連帯には国家の壁を打ち破る力がある。

≪平和首長会議と都市を巡る主な動き≫

1945年8月 米国が広島、長崎に原爆を投下
  48年8月 浜井信三広島市長が世界160都市に「広島市民
        は戦争のほかの何も恨まず、永遠平和のほかの何
        も欲しない」とのメッセージを送る
  59年5月 浜井市長が世界の主要300都市の市長、市議会
        に対し、第5回原水禁世界大会参加と広島市への
        平和巡礼を呼びかけるメッセージを送付
  61年9月 英コベントリー市から浜井広島市長に「世界の平
        和都市15市長会議を開きたいので出席してほし
        い」との招待状が届く
  75年8月 広島、長崎市が姉妹都市提携。「両市は世界恒久
        平和の実現と被爆者援護の促進を図る」と共同声
        明
  82年6月 国連軍縮特別総会で、荒木武広島市長が核兵器廃
        絶に向けた都市連帯を提唱
  85年8月 平和首長会議の前身、第1回世界平和連帯都市市
        長会議の総会を広島・長崎両市で開催。23カ国
        100都市が参加
  91年2月 国連経済社会理事会NGO(非政府組織)委員会
        が、世界平和連帯都市市長会議の加盟を認める
  95年6月 世界平和連帯都市市長会議はアジア太平洋地域会
        議を広島市で開催。初めての地域レベル会議で、
        広島、長崎の被爆50年に合わせて開いた
2001年8月 世界平和連帯都市市長会議が、平和市長会議に名
        称変更
  03年10月 核兵器廃絶のための緊急行動「2020ビジョ
         ン」を正式発表
  05年5月 加盟都市数が1000を突破
     8月 総会を広島市で開催。以降は4年置きに長崎市と
        交互開催に
  06年7月 2020ビジョンキャンペーン国際事務局をベル
        ギー・イーペルに開所
  08年1月 加盟都市数が2000を突破
     3月 平和団体「国際平和ビューロー(IPB)」がノ
        ーベル平和賞候補に平和市長会議を推薦
     4月 核兵器廃絶の国際的な道筋を示した「ヒロシマ・
        ナガサキ議定書」を発表
  09年3月 広島県の全23市町が加盟完了
     8月 加盟都市数が3000を突破
  10年5月 米ニューヨークの国連本部で開かれた核拡散防止
        条約(NPT)再検討会議が「ヒロシマ・ナガサ
        キ議定書」を採択せず。核兵器禁止条約に初めて言及した最終文書は採択
     7月 加盟都市数が4000を突破▽平和市長会議と広
        島市が「2020核廃絶広島会議」を開き、核兵
        器禁止条約の即時交渉開始など10項目の「ヒロシマアピール」を採択
     8月 国連の潘基文(バン・キムン)事務総長が広島市
        の平和記念式典に参列。平和市長会議の掲げる2
        0年までの核兵器廃絶を「完璧なビジョン」と支
        持
  11年9月 加盟都市数が5000を突破
  12年1月 初の国内加盟都市会議を広島市で開催
  13年8月 広島市で総会を開催。平和首長会議に名称変更
  14年4月 加盟都市数が6000を突破
     8月 4回目の国内加盟都市会議を長野県松本市で開
        催。広島、長崎市以外では初めて
  15年4月 リーダー都市制度とメンバーシップ納付金制度を
        導入
  17年8月 長崎市で総会を開催
  21年1月 加盟都市数が8000を突破
     7月 平和文化の振興を通じて核兵器廃絶を目指す新指
        針「PXビジョン」を発表
  22年6月 オーストリア・ウィーンでの核兵器禁止条約第1
        回締約国会議で松井一実会長と田上富久副会長が
        演説
     8月 国連本部でのNPT再検討会議で田上副会長が演
        説

PXビジョン
 平和首長会議の新たな指針として2021年7月に理事会で採択。「核兵器のない世界の実現」「安全で活力のある都市の実現」「平和文化の振興」の三つの目標を掲げる。実現に向けた行動計画(21~25年)では「平和文化月間」を設けるなどの施策を提示した。20年までの核兵器廃絶を掲げた「2020ビジョン」の後継だが、廃絶の具体的な目標年限は設けていない。

(2022年10月18日朝刊掲載)

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