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社説・コラム

天風録 『もう一つの「#MeToo」も』

 とっつきにくい白書では珍しく、防衛白書には子ども版がある。「はじめての防衛白書」。最新版で中高生が取材し、書いた記事にこんな見出しが見える。〈かっこよくて憧れる女性自衛隊員〉▲その人は小学5年生だった2011年、同じ思いに駆られた。東日本大震災の津波で宮城県の自宅は水浸しに。身を寄せた避難所で目に焼き付いたのが、てきぱきと働く女性隊員だった。腕相撲にも付き合ってくれ、優しさにも強く引かれたそうだ▲当時の少女が元陸上自衛隊員、五ノ井里奈さんである。駐屯地で性被害に日々さらされ、問題のもみ消しで口裏を合わせる組織にも落胆した。しらを切っていた加害者の4人がきのう、五ノ井さんに面と向かい、罪を認めたという▲あまりにも謝罪が遅過ぎる。ただ、成り行きを見守ってきた性犯罪の被害者は勇気づけられたことだろう。「私も被害者」と訴える「#MeToo」の声が再び、勢いづくかもしれない▲併せて、もう一つの「#MeToo」運動が広がっても不思議ではない。「私も加害者だ。申し訳ない」と告白する輪である。償いは、そこからしか始まるまい。非を認める勇気も子どもたちは見つめている。

(2022年10月18日朝刊掲載)

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